理解力がないのにSNSで発信してしまう人たち

池田氏はリン酸鉄バッテリーを「旧態化した技術」として切って捨てていなかった?

10月16日朝「ITmedia ビジネスオンライン」にあがった記事 トヨタの未来を全部見せます」についたコメント。

これは小沢コージさんのYouTubeでボクが話したことを、自分のフィルターを通して、勝手な理解をしたんだと思われる。

何もかも違う。ひとつも合ってない。リン酸鉄リチウムイオンバッテリーは、発明当初、耐久性とエネルギー密度の両方に問題があった。だから「旧態化」以前に、専門家からはものにならない技術だと見られていた。そういう分が悪そうな案件は当然開発対象として人気がない。世界中のバッテリーエンジニアたちは三元系が本命と見て、そっちにリソースを集中していた。

しかし、そこで不人気なリン酸鉄にブレークスルーを見つけ出したのは中国人研究者で、正極をナノカーボンで微細加工すると耐久性が向上することを発見した。そうして残す問題がエネルギー密度だけになると、希少金属を使わないことによる価格の安さと、発火しにくさのメリットが合わせ技で効いてくる。密度が低いなら搭載量を増やせば対策可能だ。ということで、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーにもチャンスが回ってきた。

中国政府(というか共産党)は、この特許を召し上げ(金を払ったかどうかは知らない)。中国の民族系企業にだけに公開した。その特許に守られている間にリードを築いたのがBYDだ。同業者なら、解決方法がわかれば、やってやれない技術ではない。あれは日本の自動車メーカーやバッテリーメーカーが技術的にできなかったわけではない。特許に守られていたから、研究を進めつつも製品化するわけにいかなかった。そして21年だか22年だかに特許が切れた。そういう話である。それもその動画でちゃんと説明しているはずである。

バッテリーはまだまだ開発余地のある技術なので、ボクは「○○は終わった」とか「○○には可能性がない」という言い方は絶対にしない。必ず「○○の課題を解決する必要がある」としか言わない。そもそもバッテリーに限らず、技術は常に発展の可能性を孕んでいるのが当たり前。

むしろアレなダブスタ○○オヤジたちが「水素には可能性がない」とか「全固体電池は実現不可能だ」みたいなことを言っていることに注目した方がいい。彼らは日本のメーカーの技術に否定的なだけである。テスラ愛でテスラだけ褒めているならまだ可愛いが、中国だろうが韓国だろうが、ようするに日本製でさえなければ、ポジティブ評価。日本製はディスるという極めてわかりやすいスタンスだ。

筆者は水素にも全固体電池にもそれなりにハードルが高い課題があると認識しているし、それがウィナーテイクスオールの勝利技術になるとも思っていない。課題はあるが、期待も集まっているので、解決されることもあるのではないかと言っているだけである。そのスタンスはどのメーカーのどの技術に関しても変わらない。

それと多分この人はボクに対して「トヨタが製品化すると急に手のひら返しをする」みたいに言いたいのだろうが、こっちはプロなので、好き嫌いで結論は変えない。好き嫌いが文章の行間に乗ることはあっても、結論をそんなことで変えていたら、必ず後で矛盾を招く。それではプロとしてやっていけない。

以前テスラの「ギガプレスには否定的なのに、トヨタのギガキャストは否定しないのか」みたいなゲスの勘繰りをしたヤツがいた。小沢コージさんのトヨタテクニカルワークショップを扱った動画で、ギガプレスに抱いた疑問点を全部トヨタにぶつけた上で、エンジニアから納得の行く説明をされたという詳細を見て知っている他の読者から、それを指摘されても、言いがかりをつけておいて、訂正もせずにダンマリを決め込んだ。まあそれが人となりである。

まあきっとこういう人たちは好き嫌いとエンジニアリング的解決の話を切り分けて考えられない。そして好き嫌いの次元でしかモノが見られない。アレだけ明確にリン酸鉄リチウムイオンバッテリーの技術顛末を語っているのに「池田はトヨタシンパだから、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーには反対の立場だろう」みたいな考え方しかできないからそう見える。そんな風に見ていると技術の話がつまらないマウント合戦になるから、もっとフラットに見た方がずっと面白くなると思う。

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