コンシューマーレポート

アメリカの消費者レポート「コンシューマーレポート」誌が「2021年、最も信頼できるクルマ10台」を発表した。

コロナ禍の影響が続く自動車のグローバルマーケットで、いま最も頼り甲斐があるのは北米市場。その北米市場で、顧客の選択に最も影響力があると言われる「コンシューマーレポート」が選んだこの10台は、まず間違い無く売れる。という意味で、各社のこれからの収益に大きな差をもたらす可能性がある。

ちょっとランキングを見てみる。

1位:レクサスGX(ランドクルーザー・プラド) 信頼性ポイント100
2位:キア・ニロ 信頼性ポイント95
3位:トヨタ・プリウス・プライム(プリウスPHV) 信頼性ポイント93
4位:トヨタ・プリウス 信頼性ポイント91
5位:キャディラックXT5 信頼性ポイント89
6位:マツダMX-5ミアータ(ロードスター)信頼性ポイント88
7位:ホンダ・インサイト 信頼性ポイント87
8位:トヨタ・ハイランダー 信頼性ポイント86
9位:スバル・クロストレック(XV)信頼性ポイント85
10位:マツダCX-9 信頼性ポイント85

毎度のことではあるが、日本車がズラリと並ぶ。その他にはキアが1台とGMのキャディラックが1台だけ。

こと「壊れない」ということにかけては、日本車は本当に強い。ここにドイツ車が入って来ることは希で、その他の欧州ブランドが入って来ることもまずない。

なんでこういうことを書き始めたのかと言えば、コンシューマーレポートは、よくも悪くも日本の自動車メディアとは立ち位置からして違うなと今回も強く思ったからだ。

以前、スバルの北米ディーラーに取材に行った時、スバルディーラーのオーナーがアピールしていた面白い話がある。

あるお客がフォルクスワーゲン・ティグアンを買おうと思ってディーラーに行った。クルマを見ていたら、マガジンラックにコンシューマーレポートが置いてあって、表紙には「Best + Worst Cars Trucks SUVs」の特集タイトルが踊っていた。

その雑誌をめくって、買おうと思っていたティグアンの惨憺たる評価を見たそのお客は、そのコンシューマーレポートを持ったままフォルクスワーゲンのディーラーを後にして、スバルのディーラーにやってきた(それが配布用だったかどうかは知らない)。

「これをくれ!」彼がそう言ったのは1位を獲得したスバル・アセントだった。ちなみにアセントは北米専用の3列シートのSUVだ。ちなみにこの月は、コンシューマーレポートを片手に店にやってくるお客が沢山いたそうだ。

アメリカではとにかくこのコンシューマーレポートの影響が大きい。わが国でもよく「暮しの手帖」の話が出るが、コンシューマーレポートも徹底的に消費者に寄り添う姿勢で、広告は一切載らないし、タイアップもへったくれもない。自動車メーカー側からすると、アクションの起こしようがないから、首を洗って待つ以外にできることがない。ということになっている。

アメリカの顧客はコンシューマーレポートを硬く信じているし、だからこそ絶大な影響力を誇るのだ。けれども自動車メーカーにとって北米マーケットは世界で2番目に大きいマーケット。そりゃやれることは全部やる。コンシューマーレポートの評価基準は非公表だと言うものの、レビューが載る以上、どこを見ているかはいくらでも研究できる。

当然北米マーケットを狙う自動車メーカーはどこの社も、傾向と対策を練り上げて、彼らのお眼鏡に適うクルマを開発しているのだ。自動車メーカーにクルマ造りを変えさせると言う意味では日本の自動車雑誌より遙かにメーカーへの影響力を持っていると言える。

さて、それだけみんなが血眼になって、傾向と対策をやっているにも関わらず、毎年ランキングが日本車に埋め尽くされるのは何故か? 近年オワコン扱いされることが多い日本のメーカーだが、やはりこういう明確なゴールを設定されると、それをクリアする技術力は圧倒的なのだ。

それは日本の武器であり弱みでもある。信頼性や安全性を適当に見切って、えいやっ! とイノベーティブなジャンプをするのは必ずしも得意ではない。日本の文化として「信頼」は傷つけてはならないものだというのは日本人なら誰でも日々感じていることだろう。

そりゃ人のすることだから、不幸にして信頼を裏切ってしまうこともあるが、それを忌避する気持ちの強さを恐らくレベル違いで日本人は持っている。だから日本車は強い。

とここで終わってもいいのだけれど、実はコンシューマーレポートに関しては前々からちょっと思っていることがある。コンシューマーレポートは公平性を大事にするし、顧客の視点を忘れない。そこには一定のリスペクトを払うのだけれど、なんかズレているとも思うのだ。

例えば今回1位を取ったプラドのデビューは2009年。日本だったら、そんなに古いクルマがランキングのトップを取ったりはしない。彼らは本気で「信頼性が高いかどうかだけ」を見ている。「それを今顧客に勧める意味」は全く考慮しない。自動車メーカーに忖度してないのと同じ様に、あらゆる方向に忖度しない。それはお客のメンタルも含めてだ。

毎回、地味で華が全く無いクルマをまったくひるまずにランキングに入れてくる。「いや信頼性は高いだろうけど、それを買って楽しいのかね?」とか「それってランキングそのもののエンターテイメント性、それは要するに読み物としての商品価値を失わないか?」みたいなことを平気でする。

いやダメだと言っているわけではない。「違う」、「異質だ」と言っているだけだ。消費者が買い物をする時のひとつの指標に「期待値」というものがある。「買って後悔した」か「買って満足したか」という意味だが、物差しとしては、「もう一度同じ物を同じ値段で買うか」で決まるのだそうだ。

多分コンシューマーレポートの想定する顧客は、壊れないかどうかしか気にしない。まあもちろんユーザービリティや安全性や経済性は入ってくるのだろうが、何よりまずは壊れないこと。徹底的にプラグマティックなのだ。

だからそこの文脈には、新しい仕掛けが付いているとか、革命的な機構や思想が入っているかは関係ない。テスラあたりはおそらくコンシューマーレポートと全く相容れないだろう。

当然、最新モデルであるかどうかもどうでも良い。話題や人気や映えもどうでも良い。そういうものだけで考えるランキングも嫌だが、それが全く加味されないとそれはそれで何とも居心地が悪い。ユーザーの気持ちは全くくみ取ってくれない。

それと、根本的に間違っているところもある。それはリコールの扱いだ。リコールというのは、いわゆる不良箇所の無償修理のことで、クルマくらい複雑な製品だと、どんなに完璧を期しても、不具合は発生する。

だから、もし不具合が発生したら遅滞なく対策を行い、無償で改修をすることが奨励されている。それは人間がエラーを起こすものだという前提において、リカバーするベターな選択肢を用意するということだ。

元々は航空機から発生した考え方だが、日本の国土交通省も、不具合を直ちに届け出て、改修を行えば、一切咎め立てをしない。そこで責任を追及すれば、不具合を隠すインセンティブが働くからだ。逆に言えば、だからこそリコール隠しは重罪なのだ。

そういう社会システム全体の安全装置にさえ、コンシューマーレポートは忖度しない。そりゃ確かにユーザーにしてみれば、リコールなんて無い方が良いが、無謬主義を振り回しても仕方ない。ところがコンシューマーレポートは、ランキングに入ったクルマにリコールが出ると、問答無用でランクインを取り消す。忖度にだってすべきものはあると思う。

ということでコンシューマーレポートは日本人から見るとかなり変わっている。良く言えば原理主義。悪く言えば頭が硬い。

しかしながら、アメリカの自動車販売はそういうものが、今も多大な影響を与え続けている。たまに読むならおもしろいが、一方で、案外日本のメディアを見直すきっかけにもなるんじゃないかと思ったりもする。

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