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【啓蒙】乳児の向き癖で変わる頭の形〜対処法と健康への影響は?〜

頭の形を気にしている人は意外と多いものです。
頭の形は遺伝だけで決まっているのでしょうか?

実は乳児期の向き癖が大きく影響しているのです。
親が子どものために知っておくべき事実をご紹介します。

乳児の頭は動く

乳児の頭蓋は狭い産道を通ってくるために、頭蓋骨は一塊りではなく、いくつかに分かれていて動くようにできています。
大人になっても頭頂骨、前頭骨など頭蓋骨にいくつか名前があるのは分かれていたためです。
授乳中に乳児の頭をよく観察すると、驚きますが頭の動きが見えます。
軽く頭頂を触れると柔らかいですが、ここは大泉門という大きな隙間で、骨ではなく膜で覆われています。
このように、乳児の頭は生後3ヶ月までは特に可逆性が高くなっています。

頭蓋変形を「斜頭」と言います。
多くは片側だけですが、両側に生じると短頭症、長頭症などという変形も存在します。
斜頭は進行すると、耳の左右の位置が異なったり、顔面の非対称を呈することもあります。
アメリカやカナダでは1歳未満の乳児の約40%に斜頭を認めるという報告もあります。

乳児は右向きが多い

原因はまだ不明ですが、乳児は右向き癖が左向きの約2倍ほど多いそうです。
そのため生後2~3週では右後頭部の平坦化が多くなります。
この傾向は自然に修正されることが多く、生後7週で多くが改善します。

ただし早産児の場合は、生後6ヶ月でも右向き癖が60%も残存していたという報告もありますので、注意が必要です。
頭蓋骨の柔軟性が高いためと、脳実質も重力の影響で血流などが変化するため姿勢が固定化しやすいのかもしれません。

正期産児でも7週を過ぎても改善しないケースと、新たに生後7週から発生するケースがあります。
この新たに生じるケースは問題です。
出生前の原因は骨盤位、横位、多胎、児童、児頭の骨盤腔内への早期下降などと考えられていますが、出生後の原因はなんなのでしょうか。
それが実は「習慣的な姿勢」なのです。

向き癖はほっとかないで

 筋性斜頸や何らかの麻痺の影響を除いて、向き癖は「授乳時や就寝時の姿勢」と関係していると言われています。
また、1歳を過ぎると大泉門などの膜は骨化されほぼ動きが止まって来ます。
こうなると変形を修正することは困難です。
成人まで一生付き合って行く形状ということになります。

私が斜頭を調べたのは我が子の頭に興味があったということではなく、実は運動指導をしているクライアントさんの斜頭の多さに驚いたことがきっかけです。
ご本人は当然覚えていない頃の話ですので、指摘されて初めて気付くという感じです。

そして頭の変形は重心の傾きや振り向き、また就寝時の頭位、そして顎関節にまで影響を与えます。
その結果、頚部痛、肩痛など多くの痛みに関連して来ます。
この事実を研究した文献は見当たらず、まだ臨床家のみが気付いている問題点です。

実は斜頭は、頭を扱う美容業界では常識のようです。
また、助産師さんも当然知っており、積極的に指導されている方達もいます。
しかし、まだ日本では認知度が高いとは言えません。

研究が少ないことが示しているように、斜頭と痛みや障害の関係にはまだ陽が当たっていません。
しかし、乳児の時にこの事実を親が知っていれば、防げる可能性が高い変形でもあります。

予防、修正法は

変形を予防する方法としては、まずは左右対称に横向きを取らせるということです。
仰向けが理想的ですが、仰向けばかりでは後頭部が絶壁になります(短頭蓋といわれます)ので、満遍なく向かせることが大切です。
3ヶ月を過ぎて首が座れば、自ら頭を動かすようになるので、音や興味が向くものを出来るだけ左右対称に与えることが重要です。
添い寝や添い乳は特に同じ方向にならないように注意しましょう。

斜頭がすでにある場合の修正方法は、基本は予防法と同じくタオルなどを使って積極的に平坦な部分を上にするようにして寝かせることです。
重力の影響で修正を目指します。
基本は変形を助長する習慣を見直すことです。

可逆性が少な行くなって来た時期は、海外では形状誘導ヘルメットを用いることが多いようです。
日本では保険適応にはなっていないようです。
ヘルメットは生後5ヶ月くらいが適応で、18ヶ月が終了の目処だそうです。
効果に関しては、作成する側の技術の問題や対象とする変形の程度もありますので、賛否様々な報告があります。作成に関しては慎重に検討しましょう。

※ただ、積極的体位変換法とヘルメットの効果に差があっても1.3倍という程度の報告ですので、原則はやはり姿勢の修正ということだと思います。

斜頭への対処法

斜頭が残ってしまった場合、または成人でご自分の斜頭に気づかれた方はどうしたらいいのでしょうか。
実際に前述した通り私のクライアントさんにも斜頭をお持ちの方はいらっしゃいます。
この場合、大切なのは頭を支える筋肉を鍛えることです。

頭は後頭下筋群、頚部筋群、舌骨筋群によって支えられています。
これらの筋肉をまずは重力の影響の少ない仰向けで鍛えます。

この時に頭を長軸に方向に伸ばす意識で行うことが重要です。
体幹や四肢の抗重力筋とともに上記の頭頚部の筋肉を鍛えることで、重力下になった時に頭部の正中を維持しやすくなります。

 

まとめ

・乳児の頭は柔軟性があり変形する可逆性がある。
・乳児の向き癖は右側(右下)が多い。
・出生後の後頭部の平坦化は、授乳時、就寝時の姿勢の影響が多い。
・1歳までの変形は一生残り、様々な障害や痛みにつながる可能性がある。
・斜頭は親が知っていれば防げる変形である可能性が高い。
・斜頭が残った場合には頭を支える筋力を鍛える。


※斜頭に関しては、ないに越したことはありませんが、軽度なものに関しては、特段何も注意することはありません。
あまり神経質にならないことも重要です。
顔面まで骨格が変わってくる場合(Grade4)は、できるだけ早期に専門家へ相談することをオススメしますが、軽度の場合は、向き癖の解消を優先して頂き、少しくらい斜頭が残っていても気にしなくても大丈夫です。
程度に関しては、以下の図を参考にして下さい。

Grade1はほぼ気にしなくてもいい斜頭です。Grade3〜4では専門家に相談しましょう。

僕が代表を務める「予防運動研究会」の予防運動アドバイザーや「ファンクショナルローラーピラティス」のインストラクター、またパーソナルでの運動指導の「TAKT EIGHT」では斜頭も含めた骨格の評価を行い、的確な運動指導を行っています。

お近くの専門家にご相談ください。

参考引用文献

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・小枝達也,他. ”未熟脳の頭位による変形-超音波断層法による観察-“ 脳と発達 1987;19:517-519

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