見出し画像

みんな知ってるこの絵の話 風俗野史(ベーゴマ考45)

世界にはたくさんの名画がある
そのなかで
よく目にする名画もある。

日本で一番有名な名画はこれ
(日本(のベーゴマ界)で一番有名な名画はこれ)

ベーゴマの歴史を紐解くと
必ず目にする、一枚の絵である。

日三鋳造のHPより

先日、ベーゴマやバイ貝を郵送した
イタリアの友人はこの絵がいつ何の本に載っているのかを知りたかったのだ。

この絵はしっているが
原本の絵はみていなかった。
伊藤晴雨「風俗野史」について
調べてみた。

風俗野史と伊藤晴雨

この絵の作者
伊藤晴雨は明治5年東京生まれの日本画家。急激な西洋化と関東大震災によって失われていく江戸情緒。
そんな中、自分が書き残しておかなければ、と江戸~東京の風俗(暮らしぶり)や見世物、大道芸人、玩具、年中行事、信仰や迷信、商売(行商や店屋)などさまざまな物事のディテールの描写に専心。力を注いだ。

全部で6巻発行されており
子どもの遊びや駄菓子の話などが
掲載されているのが
「いろは引江戸と東京風俗野史巻の六」である

江戸と東京風俗野史巻の六

1932年発行


発行年をみると6巻は1932年(昭和7年)とわかる。
つまり
1923年9月1日
今から100年前に関東大震災が発生。
失われたたくさんの人命や被災した建物とともに文化が消えたということは
想像にかたい。
それもあって
伊藤晴雨はこの挿絵を昭和になってから描いたのだ。

ちなみに6巻中
1から5はデジタルで閲覧できるが、
なぜか6だけは閲覧できなかった。

そのため、
図書館にみにいったのだ。

イラストの謎

例の挿絵は
江戸時代の男の子の遊びを一覧にしたページにある

凧揚げや竹馬、独楽、水鉄砲、かくれんぼ、ジャンケンなど同じものもあれば

蝙蝠こいこい
いもむしごろごろ
たくあんおし
などはわかんない。

メンコはまだ泥メンコのようだ。

そのなかに
貝独楽(バイ独楽)が出てくるのだ。


大変失礼ながら
わたしは
伊藤晴雨先生が描いた絵に疑問と不満があった。

それは

この貝独楽の形状である。
バイ貝そのままの形状なのだ。
基本的には貝のまま加工しないと
まわらない。

この一枚の絵のために
実際に幾度となく、
貝のまま中に錘などを流し入れ
回そうと試みた。
しかし、
貝のままでは
貝の下部の奥に確実に鉛を流し入れることは不可能に近く、また、そのイレギュラーに流し入れた錘が奇跡的にバランスが取れるわけはない。

そもそも
貝の上半分を削り、
錘として、鉛や砂をつめても
そのままでは絶対にまわらない。
重心を合わせるため、
平面部を砥石などで調整することが必要なのだ。(ここに時間がかかる)

また、貝のまままわすとしても
前回加工したように
貝の下部に重心が移るように
加工することが必要となる

私がだした答えは
伊藤晴雨は「バイ独楽」を知らなかったのではないか説である。

もう一枚の絵

今回、この本の原本を閲覧できて
わかったことがある。

駄菓子屋の項に出てくる
駄玩具

その左下に
みかん水と金胴の独楽(鉄輪)の間に
『バイ獨楽』の文字が見える。

ここで描いている
バイ独楽は表面に詰め物がしてあるものだ。
となると、
伊藤晴雨先生は
明らかにバイ独楽をしっていたことになる。

この数ページの差で
描いた形を変えた理由はなんなのか

一つは江戸時代には貝の形のまま回した可能性があるのか?

風俗野史前後の文献から

1712 和漢三才図会
江戸時代の正徳2年(1712)発行の
和漢三才図会(寺島良安)には、

この遊びがいつ始まったかわからないが、ばいは海中に生息する小螺で、この貝殻の頭尖部を打って平均にし、細縄で巻き回して遊ぶ。

とあるため、
江戸期には既にてっぺんは平に加工していたと思われる。

1739年の
絵本御伽品鏡にも
平に加工している人のイラストもある。

昭和11年の「上方」の挿絵でも
上部が平らなバイ独楽をみてとれる。

ということは
風俗野史の前後の文献をみても
貝の形のまま回していた事実はないのだ。

まとめ

今回改めて
風俗野史を確認したなかで
なぜ
伊藤晴雨が
貝の形状のままのイラストを書いたのかはわからない。

一方で
当時の子どもたちのすがたや
その考察をいきいきと描きとっているかちは
関東大震災から100年経った今
とても大きな意味を持つ。

いまは
イメージできない内容もたくさんあり
江戸期から昭和の子どもの遊びを知る上での資料的価値ははかりしれない。

一方で
この独楽の形状のイラストを
現在様々なところで使用されているのは誤解を招きやすく、
可能であれば
和漢三才図会などべつのイラストを使用して欲しいとは思う。

とりあえず
こんどバイ貝手に入ったら
鉛ではなく粘土詰めてみようとは思う。粘土であればバランスの調整はしやすいはずだ
それでまわったら
……
伊藤晴雨先生にあやまろう笑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?