現実科学とは

画像1

わたしたちは現実の中で生まれて、現実の中で暮らし、現実の中で死んでいきます。
現実は常にあたりまえに存在し、その存在を疑うことはしません。わたしたちは、現実は天によって万人に無条件に付与された共有共通の環境だと信じていますが、実はわたしたちが現実だと思っているものは、単にその環境に発達過程で最適化した自分が作り上げたものにすぎません。つまり各自が異なった形で最適化した現実を生きていると言えます。

今回のコロナの影響でZoomなどのツールを用いたオンラインでのコミュニケーションが増えてきました。単に情報をやり取りするだけなら、特に大きな問題はないように見えていたオンラインコミュニケーションが、実際に日常生活の一部として使われると、大きなストレスを生み出すことに多くの人が気がつきました。この壮大な社会実験が示したものは、オンラインコミュニケーションの不寛容性と暴力性で、そこにはまだまだ改善の余地があります。

一方オンラインコミュニケーションの一つの究極としてVR空間を利用したものがあります。VR空間に現実空間を再現することで、新たな人類のワークスペースを構築できるという考え方です。より高精細な視聴覚情報とフィードバックを実装することで、Zoomだけではなく現実をも超えるコミュニケーション空間を作り上げることを目標としていますが、実際に利用してみると思ったほど便利なものではありません。理由は様々ですが、技術開発が優先された結果、コミュニケーションの本質理解とそれに基づく設計思想がまだ不十分な気がします。
僕自身はその可能性を否定するつもりは全くありませんし、XRコンソーシアム代表としてむしろその新しいワークスペースのもつ可能性に大きな期待をかけています。

コロナを経て、VRを含むオンラインコミュニケーションは現実のコミュニケーションとは違うよね、というのが一般の人々の理解だと思います。まだまだそれらのツールは技術として未熟で、現実とは異なるストレスを日々生み出し続けています。もちろん現実のコミュニケーションにもストレスはありますが、オンラインコミュニケーションにおけるストレスは、技術的に解決可能なシステム設計の未熟さに起因するストレスなのではないかと考えています。

もし、システム設計上の問題なのだとすると、わたしたちが最適化している現実にオンライン空間を近づけるような設計を行えばいいことになります。
しかし、現実が何かについての議論はこれまで殆ど行われてきていません。そのため、オンライン空間で現実を再現することは現状では困難だと言えます。わたしたちは現実とは何かについての理解を深める必要があります。

現実科学は、現実とは何かを考え、それを元に再現可能な現実を構築し、現実との差分を埋めていく作業を繰り返すことでヒトが操作することができる「新しい豊かな現実」を作ることを目指す学問です。その結果実現される現実は、現実と地続きにつながるあたらしい現実になるでしょう。地続きなので、その構成要素の組み合わせ変数はさまざまなグラデーションが許容され、各自に最適化した心地いい環境になるはずです。

現実はなにかを考え、それを操作することで新しい豊かな現実を作り上げるための思想と科学が現実科学です。それは誰もが日常的に考えて実践できるものです。多くの人々の参加を期待します。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?