"こちら側"

僕はおそらく壁を作っている。

無意識のうちに。

話しかけづらいとよく言われる。

確かに、誰かに話しかけて欲しいと思ったことはない。

変に絡まれるよりひとりでいるほうが楽だからだ。

いろいろな人間がいた。

壁の遠くの櫓からこちらを見てくる者。

壁のすぐ外から物珍しそうに様子を伺ってくる者。

壁をぶっ壊して強引に中に入ってこようとする者。

大体はこんな人間だ。

違う世界にひきこもっているはずなのに壁の外から覗かれるのは嫌だし、壁を強引に壊されて自分と外の世界が地続きになるのなんかもっとごめんだ。

でも稀に、ごく稀に、変な奴がいる。

壁の内側に勝手に入り込んでそこに住み始める奴だ。

元々は外の世界の人間だったのに、気づけばこちらの世界に住み着いて、外の世界を一緒に敵対視している。

そんな奴がいる。

そいつは僕に決して似ているとかそんなことはない。

容姿も、性格も。

ただ、歩くスピードだけは変わらない。

いつも最後尾。

ゆっくり、自分のペースで、のんびりと歩いている。

まるで時の流れが違うかのように。

それに気づいてから僕は自分の壁の中の世界をこう呼ぶことにした。

「最終電車 ウラシマ行き」

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