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チーズバーガー…… 『ザ・メニュー』の感想

点数 : 5点(5点満点)

ストーリー : 有名シェフのジュリアン・スローヴィクが極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストランにやってきたカップルのマーゴとタイラー。目にも舌にも麗しい料理の数々にタイラーは感動しきりだったが、マーゴはふとしたことから違和感を覚え、それをきっかけに次第にレストランは不穏な空気に包まれていく。レストランのメニューのひとつひとつには想定外のサプライズが添えられていたが、その裏に隠された秘密や、ミステリアスなスローヴィクの正体が徐々に明らかになっていく。

監督 : マーク・マイロッド
出演 : アニャ・テイラー=ジョイ、レイフ・ファインズ、ニコラス・ホルト、ホン・チャウ

感想

観終わった後は必ず誰かと話し合いたくなる傑作!初見時は前知識を何も入れずに観ることをオススメします。

予告やあらすじをざっくり見ただけだと本作のジャンルはホラーやスリラーだと思うかもしれませんが、本作『ザ・メニュー』は今回は製作として参加している、『ドント・ルック・アップ』のアダム・マッケイが得意とする鋭い社会風刺で笑うに笑えないダークコメディ映画です。

もちろんサスペンスやホラー、スリラーといったジャンル映画要素もありますが、本作のテーマ性や最終的な着地点は社会問題をシニカルな笑いと共に描くアダム・マッケイ節が全開。

だからアダム・マッケイ節が苦手な人、彼の作品の中では割と観やすい『ドント・ルック・アップ』が無理な人には正直オススメしづらい…

本作『ザ・メニュー』で描かれている、
"提供する側と提供される側"の傲慢さ。

本作のテーマや製作陣が伝えたいメッセージが一方的な上から目線で嫌だとか説教くさいとか、そのやり方が悪趣味すぎて嫌だ という意見が多いようですが、本作は提供される側="消費者"の傲慢さを批判的に描いていますが、一方で料理を提供するレイフ・ファインズ演じるシェフ側の傲慢さも痛烈に批判しているので、一方的な上から目線ではなく、むしろフェアな描かれ方だと思います。こだわりが強いシェフと自分勝手でクソな金持ち、なら誰に感情移入すればいいか?それはどちらにも属さない、"庶民"であるアニャ・テイラー=ジョイ演じる主人公です。

またシェイクスピア仕込みのレイフ・ファインズが出演しており、一見、上品に着飾った映画と思うかもしれませんが、本作は思いっきり"ジャンル映画"らしい手法を使い、エンターテイメントに仕上げています。だから実は全く小難しい映画ではありません。複雑と構えて観るから複雑に感じてしまうだけです。

そして本作最大の魅力であるクライマックスに登場するチーズバーガー。

伝えたいテーマは全然違いますが、『ドント・ルック・アップ』では、"生というものの大切さ"を台詞で表現していました。それが欠点というわけではないけど、本作は台詞には一切頼らずに、チーズバーガーという食べ物だけでこちらを納得させる。無駄なくスマート。お見事でした。

肝心の高級料理が美味しそうに見えないという意見もあるようですが、それは完全に意図的だと思います。高級料理が意識が高そうなだけで美味しそうじゃない分、このチーズバーガーがより美味しそうに見える。

レイフ・ファインズとアニャ・テイラー=ジョイの存在感や演技は言うまでもなく素晴らしかったですが、個人的に本作で好きになったのはニコラス・ホルトです。何もかも分かったように振る舞っているけど、実は何もかも分かっていない"美食家"。個人的には『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を超えてマイベスト・ニコラス・ホルトになりました。

この映画の伝えたいメッセージ、その伝え方、すべてが好きです。

考えさせられるし、そのメッセージをまた違った角度から考察することもできる噛めば噛むほど味わい深い作品。傑作だと思います。

鑑賞後は真っ先にバーガーキングに向かい、チーズバーガーを"味わって"食べました。

アダム・マッケイ監督作『ドント・ルック・アップ』
チーズバーガー
作る過程を見るだけでヨダレが出てきそう……

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