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Garçon ギャルソン!! 〜その6・ある政治家の訪問〜

有名人に食事の場を提供する
かつて某企業に中途入社した私が
3ヶ月間レストラン研修をした時の記憶
今回はある政治家の話です。


そのレストランは都心から程よく離れ、
有名人の方にプライベートなリゾート気分
ご利用頂くことがありました。

1階 BAR&ブラッスリー
2階 予約制レストラン
3階 パーティー用や個室用

目立つ立場の方々には、
他から見えない席や個室を用意します。

政界の担当ギャルソンは、
メートルの柴さんか総支配人。

突然面倒な事を要求されても、
上に聞かずに対処できる立場の者
です。

政治家X氏は、ある日曜、予約なしで側近、
ご家族14人で見えました。

満席の営業中ですから、
少しお待ち頂くようにお願いすると、

オレを誰だと思っている!
呆れるお決まり台詞。

2階からフロントに向かっていた私は
階段で口が開いたまま棒立ちです。

上から私の教育係、アニキ分、
20才の垣田くんに、
おい!仕事と叱られる始末。

総支配人は、もちろん存知あげております、
と、笑顔でピシャリと制し
バーにお連れし、ご機嫌直しのお相手です。

別の日です。

男性歌手が小学低学年位の息子さんと
二人でフラッと見えました。
貴重な休みを男同士で過ごそうとされたのか。

予約してないのでどこでもいいです、と、
1階で静かに食事。
男の子に洋食マナーや公でのマナーを
時折り小声で叱りながら躾けている

優れた声量で有名でしたが、
話す声は、ほとんど聞こえない。

静かな父と息子。
働く者への挨拶も忘れない
謙虚な雰囲気に私はますます
彼の歌が好きになりました。

さて、ある日、政治家X氏が、
小学5年生くらいの男の子と二人で
フラッと食事に見えたのです。
いつものご家族では見ない男の子。

この日はあの歌手のように、
静かに訪れ、空いているところで、
近くで海を見せてやりたい、と1階へ。

スーツではなく初めてカーディガンで、
それは男の子とよく合っている服装でした。

1階はバーマン、ジャンレノの島です。

ジャンレノは映画レオンで
牛乳好きの殺し屋を演じる主役俳優の名
ですが、
彼によく似て、多くを語らず
渋いです、が漂う男。

ジャンレノは、お二人を一番落ち着く
コーナーブースにご案内しました。
アニキ垣田くんと私も1階勤務。

この日、横柄なX氏のお顔は消え
ありがとうとメニューを受け取り、
男の子に、何が食べたい?と聞いている。

男の子はニコリともせず黙っている。

すると、何が好きだ?ここは魚がうまいぞ、
肉がいいか?
男だから両方食えるだろと話しても

男の子は硬い顔で
意思表示をしません

私は一旦、テーブルを離れました。

その後、お声がかかり、
ジャンレノが席に行き、注文を聞いて
珍しくニヤリと微笑んだのです。

戻ってきたジャンレノは、
フレッシュのオレンジを絞り、
足付きゴブレットにたっぷりと注ぐ。

シャットに切ったオレンジの皮を
ペティナイフで羽の形に飾り切り
して
ゴブレットの縁に掛け、
赤の細いストローを2本。

メロン、バナナ、ピーチをダイスに切り、
クラッシュアイスに埋めた小さな器に入れ
チェリーを飾ってブルー傘を立てた一品を
オレンジジュースに添えている。

垣田くんが、あの子のっすか? と聞くと

ジャンレノは、じろりと私たちを見て

教えない・・・と一言。

いやいや、まるわかりでしょう、
、、ジャンレノはX氏のお席へ。

少年の顔が、ぱあっと明るくなりました。

それを見て、おお〜すごいな!と喜んだのは、
あのX氏
でした。
よほど嬉しかったのでしょう。

それからサラダ、お魚、お肉、と
お料理が運ばれるたび、
X氏は男の子に取り分けている。

運んだ垣田くんやジャンレノも、
さっとテーブルを離れる。

黙っていた男の子は
うなづいたり、少しずつ話しをしている。

私は垣田くんに聞きました。
「親子ですか」
「違うだろ」

「じゃあ、お孫さんですかね」
「息子さん、まだ独身だろ、ねえ、レノさん」

垣田くんはジャンレノに確かめました。
「あの子、親戚の子っすかね」


ジャンレノは黙って海を見渡しています。
こんな時、
海を見つめるジャンレノの横顔は
バテレンの香り
がしてくる。

長崎生まれの大きな背中に、海。
テラスの白いデッキを見ながら、
ジャンレノは

「オイの知ったこっちゃなかと。。。」

ボソリという。

ジャンレノは、政治家X氏に何かを告げ、
X氏と男の子はテラス席に移動しました。

他のお客様とお席が隣りに接近するけど、
海も波も潮風もグッと近くなります。

周りのお客様は一瞬2人を見ましたが、
それきり。

誰にだって、いろんな顔があり、
自分のことを好きになって欲しい

と思う相手がいるのでしょう。

傲慢な姿しか見せない人の
穏やかな顔を見ることは、
こちらもうれしい。

お客様の喜ぶ顔を見るのが好き。
単純にそういう気質の人たち。
それが私の見たギャルソンたちでした。

ジャンレノは、お帰りの際、X氏に
ありがとう、と
2万円のチップを頂きました。
それは、
キッチンの料理人たちも含めてでした。

お見送り後、うぉ〜!とヤンキー垣田くん。
また開いた口がふさがらない私。
これは忘年会用、と言って、ジャンレノは
『みんなのチップ缶』にしまいました。

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。

続きがこちらになります。


いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。