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田中達也展へ出かけて。

夏日のような九月最初の連休日、朝いちばんで
水野美術館へ出かけた。美術館所蔵の、日本画の
作品展が開かれているのだった。
横山大観、上村松園、河合玉堂ら有名どころの作品に
混じって、初めて目にする作家のかたの作品も
数多く展示されていた。
中でも、西郷孤月の「月下飛鷺」が気持ちに留まった。
淡い月の浮かぶ青緑の闇の中を、一羽の鷺が飛んでいる。
なんとも言えず静かな気持ちになるのだった。
自宅に戻ったら、混みあう善光寺界隈を抜けて
上田まで出かけた。新幹線で十五分、駅を出たら
長野よりもまだ暑く、じきに汗が流れてくる。
久しぶりの蕎麦屋、塩田屋の暖簾をくぐったら、
いつものように白髪のおかあさんと、明るい娘さんが
迎えてくれる。ビールを注文したら、この日のお通しは、
長いもの味噌和えとかぼちゃの煮物とほうれん草の
お浸しだった。小鉢ものをいつも三品つけてくださる
御好意が嬉しい。テレビの昼のニュースでは、
台風14号があちこちに被害をもたらしている様子が
流れている。雨風のすさまじさに、思わず
すごいなあとつぶやいてしまった。御園竹の燗酒を二本
頂いて、つめたいもりで締めた。
お会計を済ませた間際、お母さんに、
お変わりないようでなによりですと言われ、
いやいや、それはこちらの台詞です。お母さんの元気な
お姿に、こちらも元気をもらえますと笑い、
また来ますと店を出た。
飲食店の並ぶ通りを抜けて行くと、上田アリオは
買い物客で混んでいる。その先の複合施設、
サントミューゼの美術館で、田中達也展が開かれて
いるのだった。ミニチュア写真の作家さんで、
衣類や日用雑貨、食材などを使って、ちいさな景色を
作っているかただった。以前、水野美術館で
初めて拝見したときに、その発想の豊かさに
ほとほと感心をした。どれも愛嬌のあふれる作品で、
観ていくと、思わず微笑んでしまう。
美術館を出ると、夕方までまだ間がある。上田アリオの
映画館で、福山雅治主演の「ガリレオ・沈黙のパレード」
を観て時間をつぶした。コロナ禍になって、
映画館に足を運んだのは、久しぶりのことだった。
観終わって外へ出れば、好い具合の薄暮の空だった。
上田駅前の、幸村のカウンターの端っこで、
辛子なすと炙りたこをつまみに、小諸の浅間嶽と
山形の上喜元の秋酒を酌んだのだった。

ミニチュアの景色眺めて秋半ば。


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