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風通しの好い暮らしを。

自営で客商売をしている。
お客さんのほとんどが年配のかたで、長らく世話に
なっているかたもいてありがたい。
ところが毎年、体調を崩して亡くなったり、
自活が難しくなって介護施設に入られたりする
かたが幾人かいらっしゃる。加えてコロナ禍に
なり、すっかり来なくなった遠方のかたもいる。
昔に比べると、ずいぶん売り上げが落ちているの
だった。この先も、この傾向が変わらないのは
明らかだった。
売り上げを伸ばす攻め手を考えればよいものを、
元来ものぐさの身は、そんな気も起きない。
働いてはいるものの、半分隠居気分で毎日を過ごして
いるのだった。
日々の出費でいちばん大きいのは、なんといっても
飲み屋に落とす金だった。
お客さんが福沢諭吉さんを置いていけば、すんなりと、
今宵の飲み屋へ気持ちが飛んでいく。
カウンターの端に落ちついて、まずはビールで口を
湿らせて。一品二品の肴で旨い日本酒なんぞを酌んだ
翌朝、財布の中を覗いてみれば、どれだけ飲んだんだ
とあきれるくらい減っている。
毎年この時期になると確定申告をして、税務署に税金を
納めている。
一年間の売り上げを計算するたびに、よくこの程度の
稼ぎで、あんなに飲み屋詣でができたことと感心している
ありさまだった。
金が貯まらぬのも無理からぬことだった。
近ごろは、限られた店しか足を運ばなくなっている。
飲み屋もコロナ禍で売り上げが減ったり、
食材の値上げがあったり、皆さんご苦労をされている。
か細い飲み代は、できるだけ思い入れのあるお馴染みさんに
落としたいのだった。
日々の暮らしの中で、これまで義理絡みや、こちらからの
気遣いの付き合いを長年抱えてしまっていた。
そのおかげで、屈託を抱えたり、不愉快な思いをしたり
することが何度かあった。
気にしなければよいものの、そこまで度量の広い柄では
ない。
この際、無用な義理や気遣いは持たぬことと、今年さっぱりと
縁を切らせていただいた。
あれこれいろいろ手を付けたり気を散らしたりせず、
日々の思いを簡素にして、風通しの好い気持ちで毎日を
過ごしたいものだった。

飲み屋へと日銭つかんで春の宵。


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