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春先の上田で。

日曜日の午後、仕事を早めに終いにして
上田へ出かけた。甲田理髪店で散髪をして、
すぐそばの馴染みの寿司屋、萬寿さんの暖簾をくぐる。
先月伺ったときに、若旦那の愛娘のなおちゃんに、
バレンタインデーのチョコレートを頂いたのだった。
若旦那に、なおちゃんに渡してくださいと、お返しの
ホワイトデーのクッキーを差し出したら、
ありがとうございます、なおも喜びますと愛想をくずす。
なおちゃんはこの春から小学校一年生。
ぴかぴかのランドセルを背負って、小学校に通うのだった。
黒ラベルを空けて、日本酒の収まる冷蔵庫を見たら、
飯山の北光正宗の新酒が鎮座していた。
海老しんじょをつまみに利けば、やや優しい切れのある
味わいが好い。先日、このお蔵さんの息子さんと一献
交わしたのだった。
この冬の造りのさなか、蔵人が全員コロナに感染してしまったと
いう。
それからしばらくしたら、今度は全員インフルエンザに
かかってしまい、おかげで目の回る忙しさだったという。
新酒の味を利きながら、ご苦労さまでしたと想いを馳せた。
この日は北光一本と決めて、杯をかさねながら握りをつまんだ。
翌朝、目を覚ましたら雨が降っている。
軽井沢の安東美術館に行こうと思っていたのに、
肌寒い陽気に気持ちが萎えた。
そういえば、年が明けてから、上田駅前の馴染みの蕎麦屋、
東都庵にまだ顔を出していなかったと思い出す。
昼近くまで惰眠をむさぼって、東都庵へ出かけた。
いつものように、お母さんと娘さんの笑顔に迎えられ、
お通しの野沢菜の煮つけで黒ラベルを酌む。
ほどなくサラリーマンや常連客で店内がいっぱいになる。
ただいま満席でと来客を断るお母さんに、相席でも良いですよと
声をかけ、見知らぬかたの顔を向かいにビールを飲み干した。
さて日本酒をと冷蔵庫を覗いたら、地元の登水の新酒があった。
揚げなすをつまみに利いてみたら、透明感のある旨味が
実に好い。登水一本と決めて三杯飲んで、もりで締めた。
雨が上がって、市立美術館の山下清展へ再訪しようかと
思ったものの、登水が効きすぎて酔い酔いで、
昼寝したいですと引き返した。
目が覚めた夕方、再び東都庵に出かけたら、さっきは相席
してくださってありがとうございましたと、
牛筋の煮込みとポテトサラダを出していただいた。
つまみながら、またしても登水を酌んで、上田の夜に
身もほどけたのだった。

チョコくれた少女にクッキー春の夜。




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