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その笑顔が。

土曜日、午前の仕事を終えて長野駅へ向かった。
しなの鉄道の観光列車、ろくもんに乗ったのだった。
ろくもんはふだん、長野と軽井沢の間を走っている。
ろくもんの名称は、しなの鉄道の本社のある上田
ゆかりの武将、真田家の家紋の六文銭から名付けられた。
友だちが客室乗務員をしている縁で、これまでに
何回か乗らせてもらっている。旨い料理と長野の地酒を
味わいながら沿線の景色を眺めるのは、のんびりと
好いひとときだった。
冬の雪景色がきれいなこの時期、長野から雪深い
信濃町まで、北信濃雪見酒列車を運行する。
駅ビルで菓子と地酒を買って改札を抜けて待っていると、
赤色のろくもんがホームに入ってきた。
乗務員の女の子の勇ましいほら貝の音色を合図に、
落ちついた木のぬくもりの車内に入って、
友だちとあいさつを交わしながら、差し入れの菓子と
酒を渡した。
この日の料理は、沿線の飯綱町に在るレストラン、
サンクゼールのシェフが提供してくれる。合わせる酒は、
佐久の花と亀の海と勢正宗と三種類。
この冬、長野はまったく雪の降らない日が続いた。
出発して見覚えのある沿線の景色を眺めていても、市街地に
雪が見当たらない。豊野を過ぎて飯綱町の辺りから、
ようやく解け残った雪が見えたのだった。
料理をつまみに酒を酌み、友だちを眺めていれば、
相変わらず好い笑顔でお客さんに言葉をかけていて、
お客さんもにこにこ嬉しそうに返している。
この日のお客さんは、ほぼリピーターのかたたちばかりと
いう。
料理も長野の地酒もさることながら、また会いたいと
思える親しさが、再び乗りたい気分にさせてくれると
わかるのだった。
信濃町の黒姫駅に着いて眺めれば、雪深いはずの地に、
雪が少ない。車内では音楽家お二人のチェロとフルート
の演奏が始まった。爽やかな音色を聴きながら、
春の気配を感じながらの雪見酒と相成った。
黒姫駅から折り返して長野駅へ。
旨い料理と酒の旅、ちょっぴりの贅沢は、毎年の
恒例行事にしますと決めたことだった。

春めくやろくもんゆるゆる酔いの旅。







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