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土用の丑の日に。

毎日、友だちの営むセブンイレブンの
世話になっている。
毎年、土用の丑の日が近づくと、鰻の弁当を
買っている。この夏は、ご飯はいらないので
かば焼きを注文しておいた。
近ごろのコンビニのおかずは、どれも旨い。
鰻も例にもれず、そこそこ値が張るものの、
持ち帰って、麦焼酎のロックを飲みながらつまめば、
身がふっくらと柔らかく、美味しくいただいた。
子供の頃、美容師をしていて羽振りの良かった母が、
ときどきうな丼をふるまってくれた。当時ひいきに
していた鰻屋は、権堂アーケードに在った、
うな亭さんという店だったような。出前をしてもらい、
めったにないごちそうが嬉しかった。
大人になると、いつの頃からか土用の丑の日に、
実家でみんなでうな重を食べるのが習慣になった。
実家の近所に鰻屋が在って、同じく母がふるまってくれた。
母が病気を患って仕事をやめると、ケチだった父が
財布を握るようになった。鰻屋の高価な味は縁が切れて、
実家の近所の仕出し屋から、手ごろな鰻弁当を取るように
なった。おとうさん、ケチケチしないで、私がお金を
出すからと母が言っても、もう年金暮らしなのだから、
贅沢は禁物だと取り合わなかった。
そんな父の人柄も、亡くなった今では懐かしい思い出に
なっていることだった。
7月30日の土用の丑の日当日、長野電鉄に乗って
須坂へ出かけた。贔屓の鰻料理屋、た幸で一献と
目論んだのだった。
須坂駅を出て店までの道を歩いて行けば、
太陽光発電のサンジュニアの家屋の上に、りっぱな
入道雲が沸き上がっていく。
店に着くと、すでに個室から賑やかな先客たちの声が
聞こえる。
カウンターの隅に落ちついて、サッポロラガーで
乾いたのどを潤せば、相次ぐお客の注文に、
ご主人夫婦もいそがしい。
鰻の頭の煮つけとう巻きを出していただいて、
日本酒に切り替える。この日は気に入りの、
越後は村上の〆張鶴が有るというから、さっそく注文する。
さっぱりとした鰻の白焼きもつづいて出していただき、
きりっとした辛口の、〆張鶴の旨味が好く合う。
つづいてかば焼きも出していただき、酒を富山の高岡の
勝駒に切り替える。
土用の丑の日を、カウンターで静かに
堪能できるのは、なんとも贅沢なことだった。

清々と贔屓の店の鰻かな。

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