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安西水丸さんと〆張鶴。

つい先日まで、安西カオリさんの
ブルーインク・ストーリーを読んでいた。
イラストレーター、安西水丸さんの娘さんで、
父にまつわる思い出が、水丸さんのイラストを
交えながら綴られている。水丸さんは八年前の
三月十九日に、突然お亡くなりになった。
生前好んだ食べ物や器や酒についての思い出に、
一緒に過ごして感じた人柄について、しずかに
語られている。
頁をめくりながら、久しぶりに下手上手な
イラストにも触れられたのだった。
水丸さんを知ったのは、料理雑誌のダンチュウで、
越後は村上で〆張鶴を醸す、宮尾酒造を訪ねた記事が
載っていたときだった。
〆張鶴は昔も今も、越後の銘柄でいちばんの
気に入りだから、記事を読みながら、おなじく
この酒を愛するこのかたに興味を持ったのだった。
細面の目つきの優しそうな顔が印象的で、
雑誌や本でイラストを見かけると、
つい微笑んでしまうような、子供っぽい描写に、
和やかな人柄がうかがえた。
ブルーインク・ストーリーでも触れられていて、
父は村上市の〆張鶴を好んでいた。父の好きなお酒を
いつまでも一緒に飲めると信じていた。
当たり前のように過ごしていたひとときが
かけがえのない時間だったと述べている。
思いを向けたかたにまつわる酒を酌むと、ことのほか
味が心身に染みるのだった。
歳を重ねて、身近なかたがたと酌み交わしていると、
あと何年一緒に飲めるのかと思うときがある。
気持ちの通い合えるひとときひとときがありがたく
大切なことだった。
〆張鶴は、長野市の富屋酒店と、お隣の須坂市の新崎酒店で
扱っている。富屋酒店のご主人は、機嫌が悪いと
すぐにお客を怒鳴る、導火線の短かさがこわい。
飲みたくなったら、いつもフットワークの軽い
新崎酒店の若旦那に、配達をしてもらっている。
ふだんは手ごろな値段の本醸造を買っている。
このたびは、水丸さんが特に好きだった、純米吟醸の純も
買い求めた。ダンチュウの記事で水丸さんが、
〆張鶴という、ピンと張りつめた名前がいいと言っていた。
名前に違わぬ端正な味は、飲み飽きしない好さなのだった。

水丸忌〆張鶴の彼岸かな。
















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