春からの一歩に。
休日、善光寺門前の蕎麦屋、丸清へうかがった。
席に座ってエビスを飲んでいたら、手前の席の
年配のご夫婦の会話が聞こえてきた。
城跡公園の梅が咲き始めたというのだった。
上田から善光寺へ初詣でに来たかたたちだった。
昔、上田に暮らすかたと付き合っていた。
何度か訪ねるうちに、ちいさな城下町の風情が
なんとも気に入ってしまった。
付き合っていたかたは、いちど縁が切れてしまい、
その間に、男の子を産んでお母さんになってしまった。
今では良き飲み友だちとして、再び縁を続けてもらって
いる。SNSに上がって来る息子の様子を拝見すれば、
歳を重ねるたびの成長ぶりの早さに、子供ってすごいと、
いつも感心してしまう。
以前は訪ねるたびに、駅前の東横インに泊まっていた。
ところがホテルのチェックインは15時からで、
馴染みの蕎麦屋で昼酒を酌んで、昼寝をしたくても
それまでの間が長い。
居場所が有れば、時間を気にすることもないのにと、
上田在住の友だちにこぼしたら、知り合いの不動産屋に
掛け合ってくれて、運よく繁華街にほど近い
マンションの一室を得ることが出来た。
昭和六十年築で、トイレを使うたびに排水管から
ぽたぽた水が垂れるおんぼろだけど、寝泊りするには
支障がないから、気にならない。
仕事を終えた夕方、上田へ行き、寿司屋の萬寿に
おじゃました。
カウンターで常連さんと杯を重ねていたら、見覚えの
ある男女が入ってきた。
ときどき愛知から訪ねて来るかたで、前回この店で
初めてお会いして、言葉を交わしたのだった。
上田の町が好きで、昨年は十回来ましたと男性が言う。
女性は上田にお住まいのようで、夫婦じゃないと察しが
ついた。意味深な男女の仲、好いですねえと思いながら
酌み交わした。
翌朝、城跡公園に行くと、おもてなし武将隊の霧隠才蔵と
由炎が迎えてくれた。
霧隠才蔵、髪を紫に染めておしゃれだぞ。
お堀に沿って歩いて行くと、冷たい風の吹く中、白梅が
枝のあちこちに咲いていた。今年初めての春の景色に、
爽やかな気分になったことだった。
駅前の東都庵で蕎麦屋の昼酒をして、マンションに戻って
昼寝を済ませた夕方、駅に向かって歩いていたら、
付き合っていたかたの自宅の前で、ばったり息子と
出くわした。こうちゃんと声をかけたら、会うのは
ずいぶん久しぶりなのに、ちゃんと覚えていてくれた。
言葉を交わせば、きちんと敬語で答えてくれて礼儀正しい。
背が伸びて、しっかりした面構えが好いぞ。
自宅に入るうしろ姿を見送っていたら、振り向いてお辞儀を
してくれた。この春、小学校を卒業して中学生になる。毎日、
サッカーとフットサルとハンドボールを頑張っている。
駅前の幸村で、ビールを酌みながら思い出していたら、
気持ちが温かくなって、鼻の奥がつんとした。
好い子に育っているなあ。たくましくなっているなあ。
春からの母子の新しい一歩だなあ。
頑張れこうちゃんお母さん、応援しているぞ。
面構え好き少年よ春新た。
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