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ピクルスとスパム

何年か前に商売道具の手を骨折してしまった事がある。

冬になると、「スノーボード行ってもいいけど、くれぐれも気を付けてね。手怪我したらお仕事できなくなっちゃうから。」後輩にそんな言葉をかけていたのに、立場がない。

幸い?左手の親指だったので、他の指は使え、何とか周りに助けてもらって乗り切った。

近所の整形外科に通っていたのだけれど、先生は天才肌で周りの看護師さん達との連携やサポートもしっかり取れていて、理学療法士の先生達のプロ意識も高くとても意欲的で、前向きな気持ちになれる病院だった。そこは有名な所らしくスポーツ選手も沢山来ていた。

皮膚は一枚で繋がっていて、どこか切ってしまうと後々歪みが出てしまう事を職業柄何となく理解していたので、私は手術をしないで治す方法を選択した。

とにかく早く治したかったし、後遺症が残るのは嫌だったのでリハビリに頑張って通った。週2回欠かさず半年もの間通った。

定期的にレントゲンを撮るのだけれど、3ヶ月ぐらい経ったある日、

「おかしいな〜。まだくっついてない。」

と先生に言われた。高校生ぐらいだと2週間でくっつくらしい。私の歳なら1〜2ヶ月。

確かに手を使ってはいたけれど、ギブスはキチンとしていたし、毎日牛乳も飲んでカルシウムを摂るように心がけていた。原因が思い浮かばない。

先生は私の顔を見て、

「君、色白いから中々くっつかないのかもしれないね。」

と言った。なるほどと思った。

メラニンが少ないと紫外線を吸収する力が弱くて、ビタミンDが体内で作られ難いのだ。

※ビタミンDはカルシウムの吸収を助けてくれます。

当時住んでいた家は駅からとても近く、朝家から駅まで2分程太陽に当たった後は、地下鉄に乗って後は帰るまで屋内だ。帰りは夜なので、太陽に当たれない。

そう私は1日2分しか太陽の光を浴びていなかった。

それからは自転車通勤に変えて、瞬く間に骨はくっついた。

色が白いと指摘された時、人類の誕生の話を先生がしてくれた。

人類は赤道直下のアフリカで誕生して、紫外線が強かったから耐えられるように色の黒い人種が生まれた。そこで突然変異が起きて、色素の少ない人達が生まれて、そこでは生きていけないのでイギリスに移民した。(イギリスは一年中曇り空が多い。)そのずっと後に、黄色人種が生まれた。

先生は肌の色が黒い人の方が骨が丈夫なことが多いと教えてくれた。

その人類の誕生の話は、知っていた。

私達の場合、色の黒い人種は紫外線に対して強いけれど、色素の少ない人種は耐えられないのでメラニンの代わりに角質層が分厚くなった。黄色人種は、程よい色素の量だから皮膚は比較的薄くキメも細かい。だから海外で白人の人達と同じようにお手入れをすると角質を取りすぎてしまいハードで大変な事になるから、ピーリングなどは特に注意が必要と習った。

そう色素の少ない人種の人達は、メラニンで紫外線から守れないから角質層が分厚く進化したのだ。

職業が変われば、同じ話でも視点が随分変わる。

とても面白いと思った。

美容家の私達は、確かにテレビを見ていても、女優さんの肌状態やスタイルが気になってしまう。

歯医者の友人は、歯が気になると言っていた。

視点がマニアックなのだ。だから面白い。

サロンでお仕事をしている時に意識している事がある。会話の内容や立ち振る舞い。

どれだけ会話が弾んでも、お客様はあくまでサロンにお手入れを受けにきている。

私に会いに来ているのではない。もし仮に私に会いに来たと言って下さっても、“エステティシャンの私”に会いに来て下さっているのだ。

お話しするのが楽しみのお客様もいます。会話の内容はエステティシャンとしての会話。それをお客様も求めている。ここに来ないと聞けない会話。だから楽しい。

人それぞれ求めている事は違うけれど、綺麗になりたいという気持ちは変わらない。

自分は何者なのか、芯がブレないって大切な事だと思います。

そして、お客様の肌や身体もとても個性豊かだと感じています。肌や身体を触っていると、その方が毎日どの様に過ごしているかが解ります。

バイオリストの方はアゴにアザがあったり、1日パソコンと向き合っている方は肩や背中がガチガチ。皆さん勲章を抱えてご来店されます。

納得のいくものを届ける為に、メンテナンスは欠かせません。その姿もまた美しい。

明日からまた頑張っていただけるよう、心を込めてお手入れする事。それが私達の仕事です。


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