瞳の奥の秘密

シネマの記憶004 瞳の奥の秘密

 あらためて調べてみたら、このアルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」が日本で公開されたのは2010年の8月だった。シネセゾン渋谷(2011年2月に閉館)で観たのが同じ年の10月だったから、比較的長い期間ロードショウ公開されていたことになる。アカデミー賞外国語映画賞受賞作なので、当然といえば当然かも知れないけれど。

 この作品については「やや冗長」という評価もあるようだ。しかし私自身はじつにセンスの良い大人の映画と感じたし、エンターテイメントとしても十分に見応えがあった。物語の最終ページともいうべきエンドロールが流れ始めたとき、係の人を呼んで、「すみませ~ん、もう一度フィルムを回して貰えませんか〜」と大きな声で頼みたくなったほどだ。そんな気分になる作品は、そうそう滅多にあるものじゃない。

 まずオープニングのはかなく切ない吐息のようなカメラワークに眼が酔った。しばらく観るうち、どうやら定年でリタイヤしたとおぼしき男が、ノートになにやら書き付けては破いている。同じ行為をなんども繰り返している。そのうちに、その男が、長年勤めた刑事裁判所をリタイアし、家族のいない孤独と、退屈な庭いじりに倦怠し、25年前に封印された、いったんは解決をみたはずの事件を素材に、小説を書こうとしていることが分かってくる。

 そして、いつしか映画で進行する物語と、彼が書いている小説の物語が解け合っていく。スクリーンというタイムマシンに乗って、現在と25年前を行ったり来たりするうちに、観客も少しずつ真相に迫っていく。このあたり、じつによく出来た構成になっている。

 ある意味、この作品は「過去に囚われ未来を失う男たちの物語」と云えるかも知れない。しかし、これ以上は、書けません。ミステリー仕立てのストーリーでもあるので、これから観る人の楽しみを奪ってはいけませんね。

 とはいえ、ひとつだけ。彼らが追う犯人の人物像について、主人公の同僚でアル中のパブロが、馴染みのバーでサッカーの試合を観ながら、こんなセリフを吐くシーンがある。この役者(ギレルモ・フランチェラ)、なんともいい味を出してるんだよね。ここから物語が大きく動き出す。

 わかったかい?
 犯人は顔も住所も家族もかえる。
 恋人や宗教や神さえかえる。
 しかし変えられないものもある。
 それがなにかといえば情熱だ。

 おもな登場人物は、以下の通り。この映画の主人公であり小説の書き手である、元裁判所勤務のペンハミン・エスポシスト(リカルド・ダリン)、主人公の元上司(元判事補・元検事)のイレーネ・メネンデス・ヘイスティングス(ソレダ・ビジャミル)、主人公の同僚でアル中のパブロ・サンドバル(ギレルモ・フランチェラ)、真面目な銀行員リカルド・モラレス(パブロ・ラゴ)、殺害されたモラレスの新妻リリアナ・コロト、リリアナと同郷のイシドロ・ゴメス(ハビエル・ゴディーノ)。まったく初見の俳優ばかりだったけれど、いずれ劣らぬ名優ぞろい。脚本・監督ファン・ホセ・カンパネラにも注目。


公開当時の予告編動画

画像出典:シネマトゥデイ

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