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出直し金読本013 ドルと金は逆に動く

 マーケットの動向にはあまり触れない。これは出直し金読本をスタートさせる際に定めた基本ルールでした。けれど、例外が生じるのも世の常です。今回のお題は「ドルと金は逆に動く」、です。タイムリーな話題ゆえ、実感を伴ってドルと金の関係を理解しやすいかも知れません。

 金価格(ここではドル建てに限定)の変動要因は多岐にわたります。しかし、あえて一つだけ取り上げるとすれば、それはドル指数(ドル・インデックス)の動きでしょう。金価格の推移を見る上で、おそらく最も参考になるはずです。

 ここで少し説明をしておくと、ドル指数とは、主要国通貨(または米国の主要な貿易相手国通貨)に対する、米ドルの総合的な価値(または強さ)を示す指標のことです。

 結論を先に云えば、ドル指数が上昇しているトレンドでは金価格は下落する傾向があり、反面、ドル指数が下落するトレンドでは金価格は上昇する傾向があります。

 この傾向は1990年代中頃から顕著になり、いまなお健在です。なぜ1990年代中頃から顕著になったかと云えば、それはおそらく1989年11月にベルリンの壁が崩壊したことで、当時の共産圏諸国の多くが米ドルを基軸とした資本主義経済に少しずつ組み込まれて行ったことと関係があるのだろうと思われます。

 さて、冒頭でタイムリーな話題と云ったのは、まさにいまドル指数が上昇に転じ、その反対側で金価格は軟調に推移しているからです。ドル指数上昇の理由として思い浮かぶものを、二つ挙げてみましょう。ここから先は、あくまで憶測に過ぎませんので、適当に読み流してください。

 真っ先に思い浮かぶのは、ドルの政策金利引上げ。リーマンショックによって深く大きく傷んだ金融と経済が、対策として打たれた非常時の量的緩和効果でゆるやかに立ち直り、そのあとに続く景気拡大はすでに10年目。そこでいま金融正常化の一環として政策金利引上げが実施されているわけです。ドルが強含む=ドル指数が上昇する要因の一つ目です。

 次に思い浮かぶのが、ドルの本国帰り(レパトリエーション)。トランプ政権が打ち出した、グローバル企業が国外に滞留させている資金を本国に戻す際の税率を大幅に引き下げる「レパトリ減税策」、設備投資減税などを受けて、多額のドルが海外から米国に継続的に還流しつつあることが挙げられます。2018年1月、本国への資金還流を決めたアップル社を、トランプ大統領が称賛したことは記憶に新しいところです。ドルが強含む=ドル指数が上昇する要因の二つ目です。

 ドルが強くなれば、金は弱くなる。この言葉通りの展開が現在進んでいるわけです。

 ただ、ドルの政策金利引上げやドルの本国帰りは、一方で新興国からの資金流出を招き寄せており、新たな金融危機の引き金になりかねないという懸念も孕んでいます。またドルの政策金利引上げそのものについても、上限はおそらく3%程度であろうと予想されており、現在のドル高モードは比較的短命(1〜2年ほど)で終わる可能性がなきにしもあらずです。

 そもそも現在のトランプ政権が仕掛けている米中貿易戦争とて、ブーメラン効果で米国経済にとってマイナスの影響が出てくる可能性もあります。

 ですから、反対にドルが弱くなるサイクルとなれば、こんどは金が強くなる。そんな展開もやがてやってくるものと思われます。

 今回は、このようなところでしょうか。繰り返しになりますが、ドルが強くなれば金は弱くなり、ドルが弱くなれば金は強くなる。このセオリー(?)は覚えておきたいものです。

*ドル指数の入手先
連邦準備制度理事会(FRB)、ニューヨーク商品取引所(NYBOT)、大手投資銀行などが出していますが、データを入手しやすいのは連邦準備制度理事会(FRB)。短期の動きはデイリーのデータを、長期の動きはマンスリーのデータを見ると良いでしょう。そしてチャートで推移を見たいのであれば、Bloombergが良いかも知れません。1日、1月、1年、5年のレンジで見ることができます。

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