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中学・高校の見学シーズン到来、オランダ人が重視していることは?

学校のオープンデー続々

学区制がなく、自分のレベルに合った学校を選ぶオランダでは、毎年冬が各校の説明会やオープンデーのシーズンとなっている。私の住むオランダ南部のEindhovenでも、このところ毎週末、いろんな学校のオープンデーが開催されている。

中・高校の説明会の対象は、小学校の高学年(グループ7と8)。うちの次男は現在オランダのグループ7(日本の小学5年生に当たる)なので、今年からぼちぼち中・高校を見学し始めている。

残念ながら、コロナ禍の影響で実際に学校に出向いて見学することはできないので、昨年に引き続き、今年もオープンデーはオンラインのライブストリーム。各校とも工夫を凝らしたプレゼンテーションやビデオで、学校の雰囲気や活動、校舎などをアピールしている。

こうしたイベントでは、学生たちが主役。先生たちも出てくるが、8割ぐらい生徒によって進行される。そもそも学校の宣伝に出てくるような子供たちというのは、その学校の中でも特に優秀で、感じも良く、人前でも話の上手なタイプの子が選ばれているのだろうが、みんな素晴らしくしっかりしている印象。私などは逆に「うちの子は大丈夫だろうか…?」と、ちょっと心配になってしまうほどだ。

ある進学校での説明会

昨年11月に行った、ある進学校の説明会は印象的だった。

その頃はまだロックダウンにはなっておらず、私たち親子は平日夜、早めの夕食をとった後、自転車でその学校に出向いた。学校の入り口のところで親と子は別々の部屋に誘導され、子供は教室に集められて「お試しミニレッスン」を、親は先生方のプレゼンテーションを受けることになっている。

まずは入口に用意されたコーヒーと紅茶を自分で紙コップに注ぐ。何があってもまずはコーヒー・お茶から……というのがオランダ式なのだ。そして、コロナ対策として親は2カ所に分けられ、私は1.5mの間隔をあけてイスが並んでいる体育館に通された。

前方の大きなスクリーンに学校の雰囲気を伝えるビデオを流しながら、校長先生が挨拶。それに続いて、他の先生が学校の特徴的なプログラムを説明した。

この学校では1~3年生の間、3~5人のグループで自分たちのプロジェクトに取り組み、1年に1回、それを保護者の前でプレゼンする特別授業があるらしい。プロジェクトの内容は、「昆虫食についての研究」だったり「サステイナブルな家を考える」だったり、「ピタゴラスイッチ」みたいなドミノ的な仕掛けをつくって披露したり……と、多岐にわたっている。トピックが今っぽい上、「チームワーク」と「楽しさ」を重視しているのがオランダっぽい。

「歌姫」が登場

こうしたプレゼンが40分ぐらいなされた後だっただろうか、かわいらしい女子生徒がおもむろに登場し、前方に据えられたスタンドマイクの前に立った。校長先生が紹介する。「彼女はこの秋、入学したばかりの中学1年生です。課外活動の一環として音楽をやっていて、今日はCaro Emeraldの“A Night Like This”を披露してくれます。どうぞ、お楽しみください!」

学校の課外活動を紹介するために、彼女1人だけがパフォーマンスをするのか?!この新入生がこの日、たった1人で在校生代表として登場することにかなり違和感を感じてしまったのだが、伴奏が始まり、彼女の歌声が響くと、私は別世界に引き込まれてしまった。

クリアでまろやかな声、確かな音程とリズム感、裏声も上手に取り入れた彼女の歌は、Caro Emeraldのラテン的な熱いノリとは違った、ピュアで爽快な北欧的ともいえるパフォーマンスであった。ウェーブがかった栗色の髪やバラ色の頬もツヤツヤで、彼女に憧れている生徒たちも多いのではないだろうか……私は歌を聞きながら、いろんな妄想にふけってしまった。

彼女の歌は、学校説明会の休憩的な余興だったのか、コロナ禍で大勢の在校生を紹介できない中での代表選手紹介だったのか、未だによく分からないのだが、少なくとも彼女はたった1人で学校のイメージを大いに高めたと言えるだろう。

勉強しすぎはマイナスイメージ?!

歌姫の登場が効果を発揮したところで、説明会は続行。プレゼンをした先生は、以下のようなことを強調した。

「この学校は質の高い教育にフォーカスしていますが、“数字”だけにこだわっているわけではありません。芸術とかスポーツとか、いろんな幅広い才能を伸ばすことにも重きを置いています」

そこで、ある母親が質問した。

「この学校は大変成績がいいことで有名ですが、他の学校と比べてどのぐらい宿題が大変なのでしょうか?」

「ガンガン勉強させられるのは困る…」というようなニュアンスが込められたこの質問に、先生は半ば弁解するように答えた。

「ほかの学校がどのぐらい宿題を出しているのかは分かりませんが、うちの学校が特別宿題が多いとか、勉強が大変ということはないと思います」

別の父親が質問した。

「例えば、1日にどのぐらい家で机に向かわなければならないのでしょうか?」

「平均的に1.5時間ぐらい机に向かえば終わるぐらいだと思います。趣味に当てる時間も十分にありますよ」

学校でビシバシやってもらいたいと思っている私にとって、このやり取りは結構新鮮であった。学校の勉強が大変すぎてスポーツや趣味の時間がなくなることは、ここオランダではマイナスイメージなのだ。

しかし、このあといくつか質疑応答が続き、「最後の質問」が受け付けられた。手を挙げたのはインド人の父親だった。

「この学校から最高ランクの大学……つまり、スタンフォードやケンブリッジに進学した生徒はいるんでしょうか?」

インド訛りの英語で質問した彼は、これまでのオランダ語のやり取りをどれだけ聞いていたのか知らないが、有名大学への進学の可能性は、彼にとって大事なポイントなのだろう。

名声のある学校での学位取得に価値を見出すアジア人的発想と、学問のプレッシャーが大きすぎるのは困ると考えるオランダ人的発想のコントラストが面白かった。どちらも「子供に最高の教育環境を与えたい」という、共通した親の願いが根底にあるのだが。

帰りはごった返した出口のところで何とか息子と再会し、私たちはまた家まで自転車を走らせた。

「ミニレッスンはどうだった?」

「結構面白かった。3人ぐらいでチームになって、ゲームをしたよ」

「この学校に行きたいと思った?」

「う~ん、まだ分からない」

「そっか。ほかもいろいろ見に行こうね」

何はともあれ、子供が気に入った学校を選ぶのがいちばんだ。私の頭の中では、その夜ずっと“A Night Like This”が鳴り響いていた。






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