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ヨーロッパ対抗歌合戦はウクライナが優勝、「ユーロビジョン・ソング・コンテスト2022」を振り返る

2022年はウクライナが優勝


普段はあまりテレビを見ないのだが、昨夜は1時半まで画面にかじりついてしまった。毎年恒例の「ユーロビジョン・ソング・コンテスト(以下、ユーロビジョン)」の決勝戦があったのだ。

ユーロビジョンはヨーロッパ諸国とオーストラリアが参加する歌の祭典。毎年5月に開催され、2日間にわたる準決勝で25カ国が選ばれた後、決勝戦で優勝が決まる。各国の審査員による投票のほか、SNSや電話による視聴者の投票があり、後者が結果を大いに左右する。

審査員票ではイギリスが首位だったが、ウクライナは視聴者からの圧倒的な支持を得た。

今年は事前に予想されていた通り、ウクライナが優勝した。視聴者から圧倒的な数の票数を集めたのだ。ウクライナを支援したい「同情票」も多かったかもしれないが、それを差し引いても、私は「Kalush Orchestra」というグループは気合の入ったいいアーティストだったと思う。

彼らが披露した『Stefania』という歌は、エキゾチックなメロディにラップを合わせたもので、Stefaniaという名の母を歌っている。「ステファニア、マモマモ、ステーファーニーア」という、覚えやすいメロディと歌詞が今も私の頭でリフレインしている。

「ステファニア、マモマモ、ステーファーニーア」

ロシアを批判するポップソング

この「Stefania」がたたえる「母」が暗示するものは「母国ウクライナ」。SNSなどでは戦争の映像を拡散する際のバックグラウンドにたくさん使われた。ウクライナのラジオなどでもこの曲がガンガンかかっているらしく、若者はステファニアを歌いながら自らを鼓舞し、団結心を固めている。

ウクライナがユーロビジョンで優勝したのは、今回が3回目。前回は2016年で、その時に優勝したJamalaという歌手は、スターリンを批判した『1944』という歌だった。これは暗に「ロシアの侵入に気を付けろ!」というようなメッセージを発しているという。

『Put in Disco』で「プーチンはいらない」と歌うウクライナのグループ
https://www.youtube.com/watch?v=5P6-7Rw4xug

ほかにもウクライナではロシア批判のポップソングが多く、2009年にユーロビジョンに出場した「Stephane &3G」というグループの『Put In Disco』は、「We don't wanna put in!(私たちは入れたくない)」と明るく歌いながら、暗に「プーチンはほしくない(Put in = Putin)」と割とあからさまな批判を繰り広げている。単なるポップソングに終わらないところが、ウクライナの伝統なのかもしれない。

ソングコンテストに政治は持ち込まない?

ユーロビジョン・ソング・コンテストが始まったのは戦後間もない1956年のこと。世界大戦の反省から、「武器ではなく、歌で戦おう!」という目的で、政治を持ち込まないことをポリシーにしている。

しかし、実際のところこうしてヨーロッパ(+オーストラリア)が集まって、全世界に何かを発信できる場となると、オリンピックと同様、どうしても政治的になりがちだ。

ウクライナの旗を掲げるアイスランドの歌手

今回はロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシアの出場が却下された。本来、政治を持ち込まないコンテストに、ロシアは出場を許されるべきだったのだが、ロシアの参加に反対する国が非常に多かったこと、そして「ロシアが出場するならボイコットする」という国が相次ぐことを怖れて、今回はこうした措置が採られたという。

アイスランドやドイツの歌手は、パフォーマンスの後で「戦争反対!」「ウクライナを応援する」というようなメッセージを発していた。ウクライナのKalush Orchestraが「ウクライナを助けてください!マリオポールを助けてください!」と訴えていたのは、言うまでもない。最後にウクライナが圧勝したのも、みんながこの戦争でウクライナを支持していることの表明になっている。

ゲイカルチャーが炸裂

ユーロビジョンではLGBTQの活動も活発に展開されている。もともとこのコンテストは、出場するアーティストも視聴者もLGBTQコミュニティの人たちが多く、「ゲイコンテスト」とも言われていた。近年はさらに、ジェンダーの多様性を主張する場として活用されている感がある。

2014年に優勝したオーストリアのコンチータ・ヴルストさん(写真:Wikipediaより)

2014年にオーストリアのコンチータ・ヴルストさんが優勝したのも、象徴的な出来事だった。髭に美しいドレス姿の彼の出場を巡っては、SNSで反対意見が続出するなどの物議が醸し出されたが、結果的に彼はのびのびとした歌声で世界を魅了した。外見やジェンダーに囚われず、一個のアーティストとして生きるヴルストさんの生き方を世界が賞賛した結果でもあった。

私も正直、最初に彼の姿を見た時にはギョッとしてしまったのだが、よく考えてみれば髭でドレスを着て何が悪いのか。ヴルストさんの登場は、「こうでなければならない」「これが普通である」という固定観念で凝り固まった私の頭をほぐしてくれた。

今年のコンテストでも、オーストラリアなどにこうした主張が見られた。ジェンダーの多様性は、完全にユーロビジョンの性格の一部となっていると言えるだろう。

ダイバーシティ発揚の場

「多様性」ということで言えば、ユーロビジョンは国、民族、文化などの面でかなり広い範囲を包括している。世界市場を意識してか、英語の歌詞で歌うアーティストもいるが、多くの国々は母国語の歌で参加している。特に、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンなど、ソ連崩壊により90年代に生まれた新しい国々は、自国の歌を自分たちの言葉で歌うことに誇りを感じているのだろう……見ていてとても気合が入っている感があった。

リトアニアは、ちょっと昭和歌謡を思わせる曲とパフォーマンスだった。


歌詞の言葉は分からなくとも、音楽は人の心を打つ。衣装や舞台、パフォーマンスも加わって、いろんな国のいろんなジャンルの歌を聞けるのは、視聴者としてもとても楽しい。

リトアニアやモルドバの曲を聴く機会なんて、私の日常にもそうそうない。今回はスウェーデンやアルメニアの素敵な曲を「発見」して嬉しかった。今回11位に終わったオランダの「S10」が歌った『De Diepte(深さ)』もなかなかいい曲だった。ヨーロッパのマイナーな国のアーティストにとって、ユーロビジョンは世界市場への登竜門ともなっている。

オランダの「S10」は『De Diepte』で11位と健闘した。

来年はウクライナで開催?

ユーロビジョンの習わしに従えば、来年のコンテストは優勝国のウクライナで開催されることになる。現在の状況から見てそれは難しく、ポーランドやスウェーデンといった近隣の国がウクライナに代わって会場になるのではないか…との見方が多いが、オランダのメディア『Nu.nl』によれば、ウクライナは「自国で開きたい」と話しているという。

2023年、もう戦争は収束しているだろうか?ウクライナはそれまでに復興できるのだろうか?

早く戦争が収束してくれることを心から祈るが、もしも戦争が収束しなかったとしても、私は来年、ロシアに参加してほしいと思う。そうあってこそ、武器でなく、歌で戦うユーロビジョン・ソング・コンテストの目的が果たせるのではないだろうか?


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