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オランダ暴動のツケは犯罪者に。クラウドファンディングで集まる市民の力

今週もオランダでは「夜間外出禁止令」が続いている。先週土曜日(1月23日)の時点では、ロックダウンの夜を和やかに過ごすオランダ人の姿を書いたが、その翌日、国内複数の都市でかなり激しい抗議デモ……というか、暴動が起きてしまった。しかも、私の住むアイントホーフェン市では、暴徒が警察に暴力を振ったり、駅のガラスを壊したり、車をひっくり返して燃やしたり、駅のスーパーをめちゃくちゃにしたり……と、派手に暴れたので、普段は地味な中堅都市なのに一気にワールドニュースに取り上げられてしまった。ジョン・ヨリスマ市長は、もう怒り心頭に発すといった様子で、カメラに向かって「これは内戦だ!」と訴えていた。

誰が暴れていたのか?

アイントホーフェンやアムステルダムではこの日、夜間の外出禁止令など一連のコロナ対策に反対するデモが計画されており、街の広場にはプラカードを持って平和的にデモをする人達も集まっていたらしい。それが、一部の暴徒たちによって、大きな暴力事件に発展してしまった。ほかの都市でも、病院を攻撃したり、コロナのテストセンターを燃やしたりというエクストリームな行為が見られ、市井の人々からは大きなため息が漏れた。

ニュースの動画を見ていると、暴徒たちは大半が黒っぽい服を着て、大きなフードを深くかぶり、マスクで顔を覆っている上、初めから暴れる目的でこん棒やら花火やらを持ってきている。これはもはやコロナ対策に反対するデモというよりは、暴力グループの憂さ晴らしといった様相が強い。あるテレビのコメンテーターは、「あれはフーリガンのような人たちだ」と言っていた。

アイントホーフェンやアムステルダムで大きな暴動があった日曜日に続き、月曜夜にはロッテルダムも負けじと暴れ出した。この暴動には10代の若い子たちが多く参加していたらしく、最年少はなんと14歳。うちの息子と同じぐらいの子供だ。ロッテルダム市長のアーメッド・アブターレブ市長は、市内のパパママに向けてメッセージを発した。「夜9時を過ぎてお子さんが家にいなければ、おかしいと思ってください!」。

誰がツケを払うのか?

事件後、すでにオランダ各地では何百人もの加害者が逮捕されており、警察への暴力などですでに2~4カ月の懲役刑を下された人もいる。しかし、破壊された公共の設備や店の修理代などを誰が払うのかは、まだ議論されている。

国会では「コロナ暴動損害基金」を立ち上げて、被害を受けた店主を援助することを検討している。ほとんどの店舗は保険がかけられており、そこから保険金が下りる見通しだが、そこでカバーされない分を補填するのが目的だ。しかし、その資金の出所が税金となるならば、もちろん国民は黙っていないだろう。「なぜ犯罪者のツケを自分たちが払うのか?」と。基金の名前がコロナと関連づけられていることについても、「これはコロナとは関係ない!」という意見が出ている。

基金の言い出しっぺのフラッペハウス司法大臣は、最終的に加害者から費用を回収する意向を述べている。保険会社も保険金の支払いについて同様の見方を示しており、ある弁護士は「加害者が未成年の場合でも、親が責任を取って支払うか、もしくはその子が仕事を得た時に、長期にわたってでもお金を返さなければならない」と主張している。

感情に任せて公共のものや他人のものを壊したとき、どんな結果が待っているのか、本人に思い知らせるのがいちばんだ。アイントホーフェン市の位置する東ブラバント州の検察庁は、すでに多くの容疑者から車を押収し、銀行口座も取り押さえているという。

襲われた店を救え!クラウドファンディングで市民が協力

アイントホーフェンから北に車や電車で30分、デンボスという街のある文房具屋の店主、マイケ・ヌーフェイグリゼさんは、めちゃくちゃにされた店内を見ながら涙で声を震わせた。

「テロだわ……あり得ない!もうこんなことは止めてください!」

ニュースやトーク番組でこの店の様子が伝えられると、この気の毒な店主を救おうと、クラウドファンディングが立ち上がった。瞬く間に多くの人がこれに賛同し、すでに10万ユーロ(1200万円)が集まったという。ヌーフェイグリゼさんは、今度は嬉しさに声を震わせながら、「この資金は(被害を受けた)ほかの事業主と分け合いたいと思います」と語っている。今回の暴動の被害者代表となったこの店には、ルッテ首相も電話をしたほか、1月28日にはウィレム・アレキサンダー国王も訪れている。

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システマチックなコロナテスト

私はアイントホーフェンの街中付近に住んでいるが、暴動が起きた日、家に籠っていたのでこの騒動に全く気付かなかった。実はその週、私はコロナに感染してしまった人と接触があったため、PCR検査の結果待ちで隔離状態にあったのだ。

私は昨年秋に口内炎がたくさんできたとき、歯医者に「PCR検査を受けた方がいい」と言われたので、その時にも保健所に電話をしたことがあるのだが、当時は保健所がまだ押し寄せる検査の需要に対応しきれず、電話がつながるまでにも30分ぐらいかかっていた。今はさすがにコロナ関連の対応が進み、電話もサッとつながるし、質問への対応も非常にすばやく明確になっていた。

検査場は、街の大きな駐車場に設置されたテントで、ドライブスルーの形で施される。日曜日の早朝、まだ日が昇らない真っ暗な中で、蛍光色のジャケットを着た職員たちが車を誘導している。入口ゲートはライトアップされていて、なんだか楽しいイベント会場みたいな雰囲気だった。

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10分ほど車の列に並んだが、あとは驚くほどスムーズで、検査員のおばさんとアシスタントのお姉さん2人は、「わんこそばや」顔負けのシステマチックな素早さで、「あらよっ」「ほいっ」といった感じで綿棒を渡したり、プラスチックケースにラベルを張ったりしていた。鼻と喉を綿棒でグリグリされる検査は気持ちのいいものではないが、素早く終わってストレスは感じなかった。「検査の結果は48時間以内に、電話でお知らせします」

3日間の隔離生活、デリバリーは8300人待ち

果たして、コロナテストの結果は陰性だった。日曜日の朝8時ごろ検査をして、月曜日の朝11時ぐらいには電話があった。電話口でおじさんに「検査の結果、陰性でした」と言われ、思わず「よかった~!これで家族も外に出られますね~!」と喜びの声を上げると、おじさんは大笑いしていた。

火曜日に会った友人からメッセージで「コロナに感染した」と言われたのが金曜日午後のこと。テストは感染者とコンタクトのあった日から5日後に施されることになるので、検査は日曜日に予約された。結果が出たのが月曜午前中なので、金曜午後から約3日間の隔離生活を送ったことになる。

隔離生活が始まって、私はまず冷蔵庫と冷凍庫をチェックした。とりあえず子供たちの好き嫌いを考慮しなければ、1週間ぐらい何とかなる。しかし、子供たちの好き嫌いを考慮すると結構苦しい感じだったので、早速、食品デリバリーの「Picnic」とスーパーマーケット「アルバートハイン」のアプリをダウンロードした。デリバリーサービスは数年前に利用したことがあるが、それ以降は全く利用していなかったのだ。

すると、Picnicは8300人のウェイティングリストになっていて、すぐにサービスを利用できないことが分かった。コロナ禍でPicnicは大忙しなのだ。さらにアルバートハインも、定期のデリバリー顧客でない私は、最初のデリバリーまで1週間ほど待たなければならない。

そこで私は子供たちを集めて家族会議を開いた。

「君たち、今は買い物に行けないし、Picnicのデリバリーは8000人待ちだ。家にあるもので何とか食いつないでいかなければならない。あれやだ、これやだ、と言っている場合じゃないのでよろしく!」

すると、子供たちはこう言った。
「じゃあThuisbezorgd.nl(飲食店のデリバリーサービス)にすればいい!」
「そうだそうだ!今日はマクドナルドにしよう!」

私も密かに1日ぐらいはThuisbezorgd.nlにしようかな……と思っていたので、日曜日はこのサービスを頼りにすることにした。料理をする必要がなくなったので、日曜日はお気楽な気持ちで夕方までを過ごし、さてアプリを開けてみたところ、ほとんどの飲食店がデリバリー中止になっている……なぜだ?!そこで、マクドナルドに直接電話をしてみたところ……

「今日は街で暴動があったので、デリバリーサービスはしていません」

そこで、私たちは初めて街が大変なことになっていることを知った。スマホのニュースではアイントホーフェンの駅前で車が燃えている動画が流れている。私は子供たちがブーブー言う中、有り合わせの食材で夕飯をつくった。

シャバで見た暴動の後

3日間の隔離生活を終えた月曜日。天気のいい日だったので、私たちは早速、外を散歩した。ああ、素晴らしいシャバの空気!

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街は普段の落ち着きを取り戻しているようだったので、駅の方まで歩いてみた。駅の建物のガラスが投石で壊されて、クモの巣みたいなひび割れがたくさんできていた。すでにクレーン車が入って、壁の修理に当たっていて、それを通りがかりの人たちが写真に収めていた。私もパシャリ。

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傷だらけになったアイントホーフェンでも先日、被害を受けた事業主たちを救おうと、地元サッカークラブのPSVと地元ビールメーカーのBavariaが立ち上がった。「Glas voor Glas(ガラスにガラスを)」というこのアクションは、空になったビール瓶を回収して、その瓶代を暴動で被害を受けた事業主に寄付しようというもの。PSVスタジアムの駐車場に「ドライブスルー回収場」を設けて、ビールの空瓶を集めた。1時間で160台ぐらいの車が駆けつけたとのこと、さすが呑兵衛の街、アイントホーフェン!会場に訪れたある女性は、「アイントホーフェンの底力を見せてやる!」と叫んでいた。

地元紙によると、暴動から1週間が経った今日、アイントホーフェンの街ではまた、コロナ対策に反対するデモが計画されているらしい。今回は、警察の準備も周到だと思われるが、さてどうなることやら……。ただでさえ非常時の今、これ以上の混乱が起きないことを祈るばかりだ。

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