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「ワクチン打った?」は禁句。コロナが社会を分断する

コロナワクチンが普及した夏以降、EU内は完全に「Withコロナモード」に入った感があって、みんな「コロナはあるけど、自由に行動する」というのに慣れてしまった。

10~11月は気持ちのいい秋晴れが続き、秋のスポーツやカルチャーイベントも盛り上がっていた。しかし、それと同時に、コロナも大いに盛り上がりをみせ、ここ数週間で感染者は爆発的に増加してしまった。

帰ってきたコロナ

11月9日~16日の1週間の新規感染者数は、オランダで約11万人を記録(RIVM調べ)。重症化する人も増えており、毎日200人強の人々が病院に運ばれている。IC(集中治療室)に横たわる人は11月13日現在で377人。コロナ以外の患者の手術が延期されるようになってきている。

「とても嫌な決定とともに、嫌なお知らせをしなければなりません」

ルッテ首相は11月12日、記者会見で再びコロナ規制を実施することを発表した。

カフェ・レストラン、スーパーマーケットの営業は夜8時まで。普通の商店や美容院は6時まで。スポーツ観戦はプロ・アマ問わず禁止(試合・イベントは続行)。映画館、シアターなども営業OKなのだが、観客はワクチン証明・コロナテスト結果のQRコードを見せたうえで固定席に着席。学校はロックダウンの際の「最後の砦」といった感じで、とりあえずは現在も全面オープンとなっている。

経済活動を維持しながら医療崩壊を防ぐという苦肉の策は、とりあえずは「ゆるめの引き締め」という形に収まっている。この措置は当面、12月3日まで3週間施される見通しだ。

ワクチン非接種者への圧力強まる

ああ、また昨年のコロナ禍の再来か……と、うんざりモードがある一方で、昨年と違うのは「ワクチンがある」ということ。これがあるために「ゆるロックダウン」で済んでいるという現状はある。

しかし、まだワクチンを打っていない人も相当数いて、彼らが重症化しやすく(ICに運ばれる人の10人に7人はワクチンを打っていない)、そのために病院がひっ迫しているということが問題視されている。

「こんなにコロナが広がっているのはワクチンを打っていない人がいるからだ!」という非難や差別の声も強まっている。

EU各国ではワクチンを打っていない人に対する規制もどんどんきつくなっていて、オーストリアでは先日、ワクチン非接種者だけにロックダウンの措置が採られた。同国では2月1日から、「ワクチンは強制」になるらしい。

オランダでも「ワクチンを打った人(Gevaccineerd)」と「コロナに一度かかって回復した人(Genezen)」を「2G」と呼んでおり、「2G」以外の行動を制限するべきかどうかが話し合われている。

千差万別の意見

ワクチンを打たない選択をしている人は、なぜ打ちたくないのだろうか?そして、ワクチンを打つべきと考える人はそれをどう捉えているのだろうか?私の周りでは、以下のような意見が聞かれた。

「私はウイルスが怖くない。みんな自然にうつって抗体ができればいいだけのこと。ウイルスが怖い人はワクチンを打てばいい。でも、ウイルスを怖がる人のために、なぜ私がワクチンを打たなければならないの?」(40代女性)

「あのヘンク(70代、かなりヨレヨレしている)がコロナにかかって回復したんだぜ!俺はコロナにかかってもいいと思っているんだから、なぜワクチンを打たなくちゃならないんだ?弱い人がワクチンを打てばいいじゃないか」(70代男性)

「うちのお隣のおじさん、心臓が悪くて手術をしなければならないのに、コロナ患者が増えてICが埋まってしまったから、3回も手術を延期したのよ。先日は『やっと手術ができる!』って言っていたのに、このところの感染者数増大で、また延期になっちゃったの……。気の毒でたまらない」(60代女性)

「ワクチンを打った人は感染確率が下がる。だから周りの人にうつす確率も下がる。ワクチンを打ちたくない、と言っている人は周りへの配慮がない。自分勝手すぎる」(70代女性)

成人を相手に英会話を教えているある女性は、「ワクチンの話題になると、みんなケンカみたいになっちゃうのよ。1人ワクチンを打っていないメンバーがいて、『彼女が来るなら来ない』っていう人もいるし、困ったわ。ワクチンのことはなるべく触れない方がいいわね」

キリスト教のある団体は、宗教上の理由からワクチン接種(コロナだけでなく、ワクチン全般に対して)に反対している。「神の計画をハックすることになるから」だ。

陰謀説を信じる人もいる。ワクチンの中にはビル・ゲイツが開発したチップが埋め込まれていると思っている人もいる(ビル・ゲイツの権力はそこまで巨大だったのか…?)。

オランダでワクチンに関する意見は、本当に千差万別。とても難しいけれど、これが「多様化の進んだ社会」の現実だ。

子供のワクチン接種に抵抗感

私の個人的な考えといえば、実は両方の立場が混ざっている。私は自分の身を守るためにワクチンを打ったが、14歳の息子にワクチンの案内が来たときには正直、躊躇した。子供は感染しても重症化する可能性が極めて少ないのに、なぜワクチンを打たなければならないのだろう?

「ワクチンを打てば、ウイルスに感染して周りの人にうつす可能性が低くなるから」という理由は分かるのだが、ワクチンを打っても感染するケースはあるし、とにかく急いで開発されたワクチンの、長期にわたる影響については誰にも分からない。そんなワクチンを子供に受けさせるのには少なからず抵抗を感じる。

息子はしばらく様子見でワクチン接種を控えていたのだが、どこでもワクチン証明のQRコードが求められるようになると、私たちはあまりの不便さに観念した。11月初旬には2回目のワクチン接種を完了し、今はどこでもQRコードで出入りしている。

今は12歳未満の子供たちに対しても、ワクチン接種が検討されている。この措置が決定すれば、うちの次男(10歳)もワクチン接種を考えなければならない。それは本当に必要なのだろうか……?

私は子供たちにワクチン接種するよりも、お年寄りや感染リスクの高い人たちに3回目の「ブースター接種」を急ぐ方が、よっぽど大事だし、「医療崩壊を防ぐ」という大命題に対しては、効果的なんじゃないかと思っている。

「98%の人がワクチンを打ったら、それは素晴らしいことです。そうすれば、私たちはまた普通の生活を送る自由を謳歌できるでしょう。でも、もう一方で、この国では反対意見を言えることは素晴らしいことです」

と言うのは、ロッテルダムのある哲学者。私も彼に同感だ。コロナ規制に抗議して車を燃やすような行動は支持できないが、ワクチンを打ちたくない少数派はいても仕方がないと思う。彼らの自由を完全に封鎖することとの代償の方が、長い目で見ると大きいような気がしている。




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