ダッチデザインウィークを振り返る
今年も行ってきました、毎年秋にオランダ南部のEindhoven(アイントホーフェン)市で開催される「ダッチデザインウィーク(DDW)」。今年はこの催しが始まって20周年ということで、例年より一段とパワーアップした感がありました。
会場は市内8カ所に広がっており、1日で回るのは到底無理。チケットは手首にがっちりリボンを付けてもらう形で、このチケットはDDWの開催期間中(10月16日~24日)ずっと使うことができます。オンラインで21ユーロ、カウンター購入で25ユーロと決して安くないチケットなので、市内に在住する私は毎年、割と精力的に回っています。
今回は「Strijp-S」「Campinaミルク工場跡」「NRE」「Sectie-C」の4カ所を見て回りました。
期間中、前半は大変お天気が悪かったのですが、それでもかなりの人たちが全国から集まり、会場は込み合っておりました。この期間、アイントホーフェンでは、その辺の店では売ってなさそうなお洋服を着た人や、アート系の学生さんらしき人たちをたくさん見かけます。
出展されている作品も、「なんだこれは?!」という芸術系のものから、かなり実用的・商業的なデザイン商品、はたまたSF映画のセッティング的なものから社会やコミュニティを変えるためのコンセプチュアルなものまで、本当にさまざまです。
しかし、全般的にはやはり近年の世の中の潮流を反映し、「サステイナブル」で「エコロジカル」で「インクルーシブ」なコンセプトが目立っておりました。
屋内はとにかく混みっ混み。換気も悪そうなので、思わずマスクを着けましたが、皆さん、ほとんど気にしていません。
野外でもいろんな作品が見られます。
そして、中でもひときわ混雑していたのがココ↓「De Social Hair Salon」。その名の通り、コミュニケーションを大切にする美容院だと思いますが、とにかく「カット0ユーロ、カラー0ユーロ、パーマ0ユーロ……」ということで、タダに目ざといオランダ人の皆さんが列をなしておりました。
みんな、世の中を良くしようと、いろんなことを考えている。
サステイナブルで、ナチュラルで、エコロジカルで、インクルーシブで、ソーシャルで、バイオロジカルで、ロボティクスで、ジェンダーレスで、バイアスフリーで……
いろいろ見て、いろいろ解説を読んだり聞いたりしたら、皆さんの善意に圧倒され、だんだん疲れて頭と足がフラフラしてきてしまいました。そんな時に私の目の前に現れたのがこの作品。
「Maastricht Instituut of Arts」の学生さんによる「Nothing will save the world(何も世界を救えない)」という作品。彼はプロダクトデザイナーとして、世の中を良くするモノを作らなければならなかったけれど、考えれば考えるほど「モノを作る」こと自体が地球環境に悪い。
「もう何も作らないのがいちばん環境に良いのだ!」との結論に達した結果がこの作品。それでも、本当に何も作らないわけにはいかないので、箱に「Nothing will save the world」のメッセージを表明して並べることで、人々の間にコミュニケーションを生み出そうと考えたのです。そして、彼の目論見は成功しました。なぜなら、たくさんの人が「これ何?」と、彼に話しかけていたからです。投げやりなようで、なかなか秀逸な作品であります。
そして、最後にDDWで見かけた「Niksen(ニクセン=「何もしない」という意味のオランダ語)」。オランダ人はどんな時もニクセンを忘れません。陽だまりの中、のんびり何もしない。これが、いちばんサステイナブルで、ソーシャルで、インクルーシブなのかもしれません。