シナリオライターから観る映画の味わい
はじめまして。私はテレビアニメや30分ドラマの脚本を30年あまり書いてきました。
中学生の頃から映画が好きで、ついには30歳の主婦からプロのシナリオライターになったという次第です。
今は日テレ学院のライター講座やカルチャー教室の講師を務めています。
おん歳83歳ながら、元気で映画を観たりしております。
目次 1 映画を観る前に
2 映画の構成とテーマ
3 終わりの余韻と味わい
最近観た映画
おとなの事情スマホをのぞいたら
を例として私なりの感想などお話してみます。
映画の好きな方、シナリオに興味ある方、よろしくお願いします。
1映画を観る前に
⭐️私はなるべく予備知識を入れないようにしています。
前もって新聞や雑誌の映画評や映画の見所紹介を読んだりすると、それに沿った見方になってしまいます。
真っさらな気持ち、自分の感性で観るほうが、映画を味あえるのです。
特に、シナリオを学んでいると、この作品のテーマは、狙いは、カメラアングルは?などと、構えがちです。
シナリオの勉強の一つは映画を観ることではありますが、
映画は理屈で観るものではなく、素直な心で向かうのかいいと思います。
『おとなの事情 スマホをのぞいたら』
も予備知識なしで、多分スマホの中身をあばかれるハードな話だろうと予想したくらいでした。
脚本が名手岡田恵和氏ということも知りませんでした。
知っていたら、一つ一つのシーンに(なるほど、そうなるか)など意識して観ていたでしょう。
映画を観終わった後、岡田作と知って、
(あ、やはり、らしいな)と感じました。それは、目次3でお話します。
2 映画の構成とテーマ
シナリオを書くとき、いつ、どこで、誰が、何をどうしたか、を考えます。時により、人物から、テーマからなど、いろいろです。
次に、どう話を展開するか、構成を考えていきます。
『おとなの事情 スマホをのぞいたら』の構成は、
映画が始まると、暗い画面にコンピーフの缶詰をクルクル巻いて開けているシーンが映って、
なんだろうと思っているうちに、話は進んでいきます。
このコンビーフのシーンは、伏線という仕掛けで、映画のラストで、映画全体の事実が明かされていくという構成です。
映画が始まると、年代も違う3組の夫婦と独身の男性が楽しそうに集まっています。
どんな関係なのか?と観ていても、なかなか分からせません。
上手い構成でした。
なぜかコンビーフの缶が山のように置いてあります。これも伏線です♪
3 終わりの余韻と味わい
登場人物は
3組の夫婦と女の子、独身男性の8人。
実は10年前の東日本大震災で、たまたま一緒に避難し、3日間をコンビーフでしのいで生き延びたという。
それ以来、毎年、集まっているということが分かります。
当時、若く独身だった3人の男女の内、二人が最近結婚して、残りの一人が男性か何故かまだ独身のまま。
この役に東山紀之がピッタリハマっていて見せます。
独身でいる訳が、スマホを明かしていく騒動の中で、実はゲイだったことを隠していたことが分かります。
東山紀之さんが、その切ない心情を全身で表していました。
さて、スマホを見せ合うというスリリングな展開をハラハラして見ていきながら、この映画のテーマ、伝えたいことはなんだろうと考えていました。
3組の夫婦もそれぞれの秘めごとが明かされて、殺気だった修羅場になっていきました。
どうなるのか、どういう結末になるのでしょうか。
ややあって彼らは、10年前の震災で支え合って生きのびた話を語り出します。
コンビーフのこと、この集まりのことが、ここで分かっていきます。最初の
伏線が回収されたのです。
そして彼らが、これからも支え合っていこうと、思いを新たにしたところで、映画は終わります。
エンディングロールで、脚本が岡田恵和と分かって。ああ、やっぱり!と思いました。恵和氏は人間の持つ優しさや前向きな心根を、必ず設定の奥に据えています。
どのドラマにも、そのエキスが香りが感じられるのです。
この映画にもそれがありました。
映画でははっきりした結末を描いていません。
彼らのその後が気になりました。
秘密が明かされた夫婦は、どうするのだろう? 離婚するような気配は無さそうですが、以前と同じように暮らしていけるでしょうか。
この映画は、世界各国てリメイクされたイタリアのコメディの日本版とのこと。海外版を観てみたいです。
さて、この映画のテーマを私なりに考えました。
自分のスマホは見せたくないけど、人のはのぞいてみたい、そんな真理は誰にもあること。
そして、誰にも自分だけの心の秘密があるものです。
けれど、私たちは何かしら周囲や自分に折り合いを付けて日々を送っています。
映画の中の人たちも、スマホをのぞいたことで、お互いを新たな目で見るようになったことでしょう。
誰にもあった秘密の思い。それがわかった今後は、きっとなんとか折り合いを付けてやっていくでしょう。明日もこれからも。
映画で敢えて結末を見せずに終わらせたのは、人間が生きていくのは、誰も
そうやっているんだ、と言いたかったのではないかと思いました。
だから、私は自分のスマホは見せませんし、人のスマホはのぞがないことにします。
それが人としての優しさなのではないでしょうか。
映画はそう気付くよう仕掛けていたのかも。それが岡田恵和脚本の味わいなのです。
終わり
#シナリオの書き方
#シナリオ講座
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