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ショートショート「音声燻製」

たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しました。

今回のお題は「音声燻製」

音声燻製

彼はソロキャンプが好きな人だった。
ひとりでキャンプし、ひとりで食事をつくり、楽しむ。

彼は、恋人のわたしをキャンプに連れて行くことはなかった。

だが自宅では、よく料理を作ってくれた。
彼の料理はとても美味しく、とくに燻製料理はネットで評判のレストランと同じくらいの素晴らしい味だと、わたしは思っていた。

でもわたしのちょっとした浮気が原因で、彼に別れを告げられた。

半年後、やはり彼が好きだと思ったわたしは電話をかけてみた。

彼は困ったような口調で電話に出た。
「いま、キャンプしてるんだ」
「ごめんね、あの…」
「ねえベーコン美味しいよ、食べようよ」

電話口の向こう側、女性の声。
わたしは慌てて電話を切った。

彼は、誰かをキャンプに連れて行ったのだ。わたしのときとは違って。

彼女が変えたんだ。

燻製は、煙で食べ物を別の姿に変える。
彼女の甘えた声は彼を変えて、そしていま、わたしの体の水分を奪った。

燻製だ。

わたしの喉も、心の中もカラカラに。

***終わり***

読んでくださってありがとうございました。

燻製といえば、私はスモークチーズが好きです!