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【Stage】小林舞香プロデュース『春夢共鏡』

 8月21日浅草六区ゆめまち劇場で、国内外で活躍する画家・小林舞香が総合プロデュースを手がけたパフォーマンス・ショー『春夢共鏡』の初日を観た。小林は、これまで画家として世界各地で個展を開くかたわら、舞台美術にも関わってきた。その彼女の「絵画、壁画だけでなくさらに総合的な舞台芸術を表現したい」という思いが結実したかたちだ。舞台は小林が描くスケッチ画を元にした世界観でつくり上げられている。最初に舞台上に据えられた衝立には、彼女の絵が描かれていて、ショーが始まるとそこに様々な映像がマッピングされていく。主人公の花魁がまとう打掛も小林がデザインしたもので、そのほかの人々の衣裳も極力その世界観からはみ出ないものが選ばれている。

 舞台は、吉原で権勢を誇るひとりの花魁が偶然訪れた幼馴染と再会し、自分の存在意義について悩み、最終的には幼馴染と足抜けを決意するというストーリーに沿って展開していくが、セリフは一切なく、すべては音楽とダンス、そして殺陣やパントマイムを含む演技によって表現される。脚本と振付は主演でもある青井美文。演出と殺陣振付は幼馴染役を演じる阿比留大樹。音楽は基本的にオリジナルで、演奏は録音によるものだが和太鼓奏者だけがその場で生演奏をする。

                     和太鼓:ゆうき(虎姫一座)

 さて、普段オペラやミュージカルなどを観ている身からすると、この「ノン・バーバル」というスタイルは非常に新鮮な印象だ。もちろん、同じようにあるストーリーを言葉を使わずに表現するバレエというジャンルはあるが、『春夢共鏡』はそれともまた違う種類のパフォーマンスであると感じられる。それはこの作品が、「ドラマ」としての強さを備えていることに大いに関係しているだろう。小林はこの作品のテーマを「人生の選択」だという。あえて花魁という「自由な選択が許されない存在」が主人公に選ばれたことで、「人にとっていちばん重要なのは自分自身の人生を選択すること」というテーマが浮き彫りになる。さらに、「人生の選択が許されない」のは実はある時代の特定の職業の人だけではなく、現代に生きる私たちとて必ずしも「自分の選択」が叶うわけではない、その切なさや悲しさを背負いながらいきている「人間という存在」のあり様が胸に迫ってくる。まさに「ドラマ」としての芯の強さがこの作品にはあるのだ。

 そして、その「ドラマ」に説得力を与えているのが、各演者の技量(ダンス、演技すべてにおける)の高さであったことはいうまでもない。私が知らないだけで日本にはまだまだすごい表現者たちがいるのだなあと感嘆を覚えた。

                           花魁:青井美文

 舞台全体のアート・ディレクションは本当に質が高く、プロジェクション・マッピングの美しさはさすが画家である小林のセンスが存分に活かされていたといえるだろう。マッピングは装置による場面転換がいらないという利点が強調されがちだが、「アート」としてのプロジェクション・マッピングという点では日本ではまだまだ感心できるレベルのものにお目にかかることは多くない。その意味でもこの舞台の意義は大きいと思う。

 唯一気になった点は、音楽が録音だったことである(これは私が普段クラシックに親しんでいることもあるだろうが)。音楽そのものが悪いのではないので音響機材の問題なのかもしれないが、場面によってはアコースティックな響きが欲しいところがあった。もちろん、舞台の規模などを考えるとすべて生演奏でというのは難しい面もあるだろうが、ここにこういう演奏が入ったらどうなるだろうという想像はとても楽しかったので、ぜひ次回作では検討してみてほしい。

 この『春夢共鏡』は追加公演が決まっている。詳しくは公式サイト参照。

写真:Lasp舞台写真株式会社

2018年8月21日、浅草ロックゆめまち劇場。

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