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声の饗宴を堪能〜【Opera】ベルカントオペラ・フェスティバル・ジャパン『ジュリエッタとロメオ』

 「ベルカントオペラフェスティバル・イン・ジャパン(BOF)」は2019年に藤原歌劇団とイタリアのヴァッレ・ディトリア音楽祭が提携してスタートさせた催し。4回目となる今年もコンサートはマスタークラスなどいくつかのイベントが予定されている。今回はニコラ・ヴァッカイ作曲のオペラ『ジュリエッタとロメオ』をテアトロ・ジーリオ・ショウワで鑑賞した。コロナ禍のために指揮者を含む海外キャストの来日が叶わないことなどから、当初の予定を大幅に変更しての上演。最大の変更はセミステージ形式になっていたこと。オケは舞台上に配置。キャストはオケの前で演奏するが、基本は譜面台を前にしての歌唱で、いくつかの場面では前に出て演技を行うが、特別な衣裳は着けていない。舞台左右に小さめの台が置かれており、演技の際にはそれが利用される形。また助演も6人ほどが登場した。

 キャスト陣は総じてレベルが高く、ベルカント・オペラにおいてもっとも大切な「声の魅力」が存分に堪能できたのは喜ばしい。第1幕のジュリエッタ・伊藤晴とロメオ・松浦麗の二重唱は、女声二重唱における「同質性の美」の極致のような響きで、その官能性に震える。松浦麗は最近声の幅と奥行きが広がっているが(以前はもっと細い声だったような気がする)、まさに「ビロードのような」柔らかさを持っておりこうしたズボン役にはピッタリ。カペッリオの澤崎一了は本当に輝かしく伸びやかなテノール。少々アジリタに不安を感じる箇所がないではなかったものの(多分ほんの少しだけこの役には重いのだと思う)、この人の高音は本当に人を魅了する。ロレンツォの小野寺光もピッチが安定していてよく通るバス・バリトン。

 「ロメオとジュリエット」を元にしたベルカント・オペラといえばベッリーニの『カプレーティとモンテッキ』が有名だが、ヴァッカイの本作はそれより5年前に初演された作品。ヴァッカイ作品で台本を手がけたのはフェリーチェ・ロマーニで、実は『カプレーティとモンテッキ』はこの台本を手直しして使っているので、両作はストーリーもほぼ同じだ。初演当時は、ベッリーニよりもヴァッカイの作品の方が評判が良かったそうだが、ベッリーニの人気が上がっていくにつれてヴァッカイの名声は衰えてしまった。それでも『カプレーティとモンテッキ』のフィナーレだけは不評だったために、ヴァッカイの方のフィナーレに差し替えて歌うことも多かったという(公演プログラム掲載の小畑恒夫による作品解説より)。

 今回は、レチタティーヴォ部分をオーケストラが伴奏する改訂版による世界初演。鍵盤楽器ではなくオケが伴奏することでレチタティーヴォの表現力が上り、また全体でひとつながりのドラマという側面が強調される効果が上がっていると感じられた。指揮の鈴木恵里奈は、レチタティーヴォは極力軽やかに、アリアや二重唱など聴かせるところではしっかりとオケを鳴らしていて、こうした作品の特徴を伝えることに成功していた。合唱は舞台奥、紗幕のさらに奥に配置。人数も少なく、しかもマスク着用だったせいか、音が客席まで飛んでこないし、まとまりに欠けるところがあったのは残念。だが全体としては知られざるベルカント・オペラの魅力を存分に堪能できるプロダクションに仕上がっていた。機会が許せば、次はぜひフルのオペラ上演を観てみたいものだ。

2022年3月17日、テアトロ・ジーリオ・ショウワ。

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