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『해치지 않아』(傷つけない)

ずっと気になっていた『해치지 않아』という本をようやく韓国から取り寄せて読みました。『이야기 요정』(おはなしの妖精)と同じ、atnoonbooksという出版社から2016年に発行された本です。

今ごろ気づいたのですが、著者の정미진(チョン・ミジン)さんは『이야기 요정』や、ずっと前に読んで強い印象を残した『있잖아, 누구씨』を書いた方でした。それぞれ別のイラストレーターさんが絵を描いているので、認識できていなかった…。毎回、絵もとてもいいですね。

『있잖아, 누구씨』

『해치지 않아』

「해치다」は、害する、傷つける、殺すという意味なので、タイトルは「害さない」、「傷つけない」、あるいは「殺さない」。

表紙の絵は、手を取り合って泣く若いふたり。海のなかのようにも見えますが、足元には植物が描かれています。男性のほうは靴を履いていません。
タイトルと作者名は縦書きで、フォントと色がきれいです。ハングルは縦書きにしたとき母音の縦の線がまっすぐ一列に並ぶから、視覚的に良いですね。

『해치지 않아』  表紙

裏表紙にはこう書いてあります。

”무엇도 해치지 않고 살아갈 순 없을까?”
なにも傷つけずに生きていくことはできないだろうか?

「아무도(だれも)」ではなく「무엇도(なにも)」なのは、人間以外を含む意味があるからだと思います。

というのも、表紙の靴を履いていなかった青年は菜食主義者で、口蹄疫が発生したときに獣医として豚の殺処分(生き埋め)の現場に立ちあって以来、動物の肉を食べるのをやめて、「なにも傷つけずに生きていきたい」と考えているのです。

女性のほうは、「弱肉強食」の競争社会のなかで、人よりもいい収入、いい暮らしのために体も顧みずに働くことを強要されることに疲れ、自分の好きなことをしながら、ささいな幸せを大切に生きていきたいと切実に願っています。

そんなふたりが出会い、もっと自分らしい人生、よりよい社会に向けて自分たちにできる小さな一歩を踏み出そうとしたとき、それを踏みにじるようなつらい出来事がそれぞれふたりを襲います。表紙の涙は、このときのものです。

この本はコマ割りの画面で構成された、いわゆるグラフィック・ノベルというジャンルの本なので、すべての場面が絵で描かれています。だからこそ、この涙の原因となった出来事は目をそむけたくなるほどつらいものがありました。
ただ、忘れてはならないのは、ふたりを害した人もまた社会から切り捨てられ傷ついた存在だということ。ほんとうに、どんな人も、動物も、環境も、害されることなく共存できないものだろうか、と考えさせられます。

公式のブックトレイラーも出ています。싹이돋아(サギトダ)さんの絵がすごくいいです。

この本、分厚い紙で200ページある、ずっしり重たい本です。『이야기 요정』の倍のサイズ感。でもその重みが心地よくもあります。

『해치지 않아』と『이야기 요정』

この本と関連して思い出したのが、김한민(キム・ハンミン)さんの『아무튼, 비건 ー 당신도 연결되었나요?』(とにかくヴィーガン。あなたもつながっていますか?)というエッセイ。やはり豚の殺処分(生き埋め)についても書かれていました。

もうひとつが『세상에 무해한 사람이 되고 싶어』(世界に無害な人になりたい)。허유정(ホ・ユジョン)さんという方が書いたゼロ・ウェイストライフについてのエッセイです。
”무엇도 해치지 않고 살아갈 순 없을까?”という問いは、環境問題とも切り離せないと感じたので。


わたしはというと、ちいさな庭やプランターでいろいろな野菜や植物を育てながら、菜食やゼロ・ウェイストについて少し考えてみたりしているところです。

書籍情報

題名:해치지 않아(傷つけない)
著者:정미진(チョン・ミジン)文
   싹이돋아(サギトダ)絵
出版社:엣눈북스(atnoonbooks)
発行日:2016年7月15日
ISBN:9791195216154
ページ数:200ページ
教保文庫リンク:https://product.kyobobook.co.kr/detail/S000001958554

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