「せん妄について」 -認知症とともによりよく生きる -

 認知症の人と家族の会福岡県支部の月刊広報誌「たんぽぽ」に「認知症とともによりよく生きる」という連載を行っています。今回、許可をいただいてnoteにも転載することとしました。 
 こちらの記事は、2020年8月号に掲載されたものです。 

 「せん妄」って、ご存知ですか?正式には「譫妄」と書く医学用語ですが、認知症に身近なものです。

 せん妄は一見すると認知症と症状の区別がつかない状態で、不安、イライラ、興奮、不眠、幻覚、妄想などのわかりやすい症状を引き起こすこともあれば、無気力や活動性の低下を起こすこともあります。経過が比較的急激に始まることと、状態の変動が大きいことがせん妄の特徴です。また、夕方から夜間にかけて悪化することが多いことも知られています。日中は穏やかなんだけれども、夕方や夜間に不安が高まったり混乱したりする事があればせん妄かもしれません。

 せん妄は準備状態に誘因が重なることで起きますが、この準備状態とは加齢や認知症などで脳の機能が低下した状態と身体的病気が重症な状態をさすため、認知症にせん妄が重なることが多く注意が必要です。

 せん妄の誘因は様々ありますが、最も多いのは薬の内服によるものです。睡眠薬や胃薬、鎮痛剤などはせん妄の誘因として多くみられます。加齢に伴って脳の機能は低下するため長年内服しているお薬もせん妄の誘因となります。その他、身体疾患、バイタルサインの異常(高血圧・低血圧、高体温・低体温、不整脈)下痢、脱水状態、貧血、手術直後、飲酒および断酒、痛み、など様々な身体的要因がせん妄の誘因となります。また、心因や環境因もせん妄の誘因となります。具体的には、急激な環境変化や離別、死別、経済的問題、感覚遮断状況(周囲からの孤立感)、睡眠遮断、身体抑制などです。夕方・夜間になるという環境因もせん妄の誘因となります。

 せん妄は認知症の人に起こりやすい一方で、認知症と症状の区別が難しいため見逃されていることも少なくありません。せん妄の治療の基本は誘因の除去であり、まずは疑うことが重要です。認知症の原因疾患のほとんどは急に悪化はしません。いつもと様子が違うと感じたらせん妄を疑って主治医の先生に相談されてください。一点、大事な注意事項です。急な断薬もせん妄の誘因となりますので、お薬によるせん妄を疑ったとしてもその薬を変更するかどうかは主治医の先生に相談されてからにしてください。


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