見出し画像

されど邦題

アメリカ東海岸出身の方と、映画や楽曲のタイトルの邦題を話題にして会話したことがあります。

映画「An Officer and a Gentleman」の邦題は「The departure of love and the youth」
カルチャークラブの「Do you really want to hurt me」の邦題は「You are perfect」
シンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」の邦題は「The high school is The dance terrier」
だよと、説明したら、首を振りつつため息混じりで一言
「doesn't make sense・・・」

そもそもシンディ・ローパーが高校生って設定が無理がありますよね。

80年代頃までは、映画も音楽も「邦題」が付いていたと思います。

今は昔で、今は映画にしても音楽にしても、そして本にしても大体は原題のカタカナ表記になっているかと思います。


とはいえ。
邦題のつけ方が秀逸なものも、特に翻訳本にはあります。

私たちのカフェでは、英米児童文学の翻訳家の方をお招きして、ご自身の訳された本や、偉大な翻訳家の方のお話などをお聞きする茶論トークを開催していて、翻訳にまつわる貴重なお話をたくさん教えていただいております。


NHKの連続テレビ小説でも取り上げられました翻訳家 村岡花子さん。
数々訳された中でも有名なのは、連続テレビ小説のタイトルにも出てくる「赤毛のアン」でしょう。

お話くださる翻訳家の方が常々おっしゃるのが
「翻訳本は原作のある日本文学です」

つまり、単なる訳本ではなく、日本の文学としてもちゃんと読める作品になっていることが大切、と講師として教える生徒さんにも伝えているそうです。

「アン」シリーズの原作者のモンゴメリは、原文でもとてもステキな表現をしている作家で、そのステキな表現を村岡花子さんは日本語でもできるかぎり表現しています。

たとえば、アンとダイアナが学校へ行くのに通る道をアンが名前を付けるのですが、原作では「Lovers Lane」と名づけます。それを村岡花子さんは「恋人の小径」と訳しています。
原作が“L”で頭韻を踏んでいるのを、村岡花子さんは“こ”で頭韻を踏んでいるのです。しかも“みち”の字をあえて“径”を使っているのもステキ感を高めています。

さて、日本語タイトルの「赤毛のアン」。
原作のタイトルは「Anne of Green Gables」で、“G”の頭韻が踏まれています。
これを訳すと「緑の切妻屋根のアン」となるのですが、モンゴメリのうつくしさが出ません。
ですが、本のタイトルは重要で、「手に取ってみよう」と思うタイトルであることが、とても重要なのです。

アンのタイトルについては、担当編集の方が「赤毛のアンではどうか?」と提案されたとき、このタイトルについては村岡花子さんは、否定的だったそうです。
作中でもアンが赤毛にコンプレックスを持っていることを示すエピソードがあるように、黒髪の日本人にとってはエキゾチックで憧れすら持ちそうな赤毛ですが、赤毛は欧米圏ではあまりよいイメージがないことを村岡花子さんはご存じだったからです。
ですが、結局タイトルは「赤毛のアン」に決まりました。
それは、村岡花子さんの娘さんが、「ステキなタイトル」とおっしゃったことによるそうです。
読んで欲しい読者層はまさに村岡花子さんの娘さん世代の方。
その世代の感性に響くのであれば
ということだったそうです。
そのタイトル「赤毛のアン」は“あ”で頭韻を踏んでいますね。

このような日本語のタイトルが決まる過程のエピソードを聞くと、
たかが邦題ではありますが、されど邦題なのだなぁ~、と感じます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?