ダイアトニック・コードとは

こんにちは。名古屋でベースを弾いている吉岡直樹と申します。

先日、ライブであるピアニストと「ダイアトニック・コードって難しいよね」という話になりました。マイナー・キーの場合についてきちんと整理されていないし、メジャー・キーであっても、サブドミナント・マイナーIVm6をダイアトニック・コードで理解するととてもシンプルですっと腑に落ちるのに、そのような解説も見当たりません。

ダイアトニック・コードとは、ジャズ・ハーモニーのなかでも比較的最初の方に学習することです。「ダイアトニック・コードなんて楽勝」と思っている人にも、ちょっとした気づきになればよいなと考えているので、よければご覧ください。

なお、【独自研究あり】究極のダイアトニック・コードまとめ!(試案)もよければご覧ください。


「ダイアトニック」とは

「ダイアトニック」という言葉は少し難しい概念なのですが、取り敢えずここでは、「スケール上の」というような意味で理解すればよいでしょう。もう少し詳しくいうと、ある特定のスケールを想定し、「そのスケール上の音からなる」というような意味で捉えます。この理解は、本来の「ダイアトニック」の概念とは少し異なるのですが、ジャズ・ハーモニーを学ぶ上ではこのような理解をしても、ほぼ差し支えないと思います。

そして、あるコードのコード・トーンのすべてが対象のスケール上に存在している場合、そのコードは、そのスケールに対する「ダイアトニック・コード」といいます。また、ひとつでも対象のスケール上に存在しない音を含むコードは、「ノン・ダイアトニック・コード」であると判断するのです。

このように、ダイアトニック・コードを考えるときには、特定のスケールを対象に判断します。ジャズで使われるスケールには、例えば、メジャー・スケールのようなものから始まって、クロマティック・スケールやディミニッシュ・スケール、あるいはペンタトニック・スケールのようなものまでいろいろありますが、「ダイアトニック・コード」を考えるときには、キーに対応する7音からなるスケール、すなわち、メジャー・スケールとマイナー・スケールを想定します。西洋音楽の体系は7音からなるスケールを前提にしているからです。

メジャー・スケールのダイアトニック・コード

メジャー・スケールはいわゆる「ドレミファソラシド」で、もっともよく知られたスケールです。ここでは、Cメジャー・スケールで考えましょう。そして、ジャズのコードは原則として4つのコード・トーンからなる四和音(テトラド)で考えます。

Cメジャー・スケールのそれぞれ3度ずつ、スケール上の音を積み重ねて四和音をつくると、Cmaj7、Dm7、Em7、Fmaj7、G7、Am7、Bm7$${^{(♭5)}}$$の7つのコードができます。これらが、Cメジャー・スケールの7つのダイアトニック・コードです。

Cメジャー・スケールのダイアトニック・コード

それでは、E♭メジャー・スケールの7つのダイアトニック・コードを求めるにはどうしたらよいでしょうか。

E♭メジャー・スケールさえ分かればそれほど難しいものではありません。E♭メジャー・スケールは、E♭・F・G・A♭・B♭・C・Dです。先ほどのCメジャー・スケールのダイアトニック・コードのルートをE♭メジャー・スケールに置き換えたもの、すなわち、E♭maj7、Fm7、Gm7、A♭maj7、B♭7、Cm7、Dm7$${^{(♭5)}}$$がE♭メジャー・スケールのダイアトニック・コードになります。

E♭メジャー・スケールのダイアトニック・コード

さて、メジャー・スケールの音をIからVIIであらわすことで、メジャー・スケールのダイアトニック・コードをImaj7、IIm7、IIIm7、IVmaj7、V7、VIm7、VIIm7$${^{(♭5)}}$$のように一般化することができます。最初は抽象的で分かりにくいかもしれません。数学で、「りんごが2個、みかんが3個」ならわかるが、「りんごが$${x}$$個、みかんが$${y}$$個」になった途端、わけが分からなくなって脱落するのと一緒かもしれません。どうかドロップアウトしないでください。

G6はCメジャー・スケールのダイアトニック・コードか

ここでクイズです。G6はCメジャー・スケールのダイアトニック・コードといえるでしょうか。一緒に考えてみましょう。

G6とCメジャー・スケール

G6のコード・トーンは、G・B・D・Eです。これらはすべてCメジャー・スケール上に存在しています。したがって、G6はCメジャー・スケールのダイアトニック・コードといえるようです。

この考えは、少なくとも形式的には正しいといえます。しかし、実践的にはG6はCメジャー・スケールのダイアトニック・コードとはいえません。つまり、たいていはノン・ダイアトニック・コードとみなされるいうことです。

どういうことかといいますと、G6は、メジャー・コードに分類されます。メジャー・コードには、G6のようなシックスス・コードと、Gmaj7のようなメジャー・セブンス・コードがありますが、基本的にジャズ・ハーモニーにおいては基本的にこの2つを同じものだとみなします。G6のコード・トーンはすべてCメジャー・スケール上の音でしたが、Gmaj7のコード・トーンG・B・D・F♯のうち、F♯がCメジャー・スケール上にありません。したがって、G6は、百歩譲って、「形式的には」Cメジャー・スケールのダイアトニック・コードといえたとしても、実践においてはCメジャー・スケールのダイアトニック・コードとはふつうみなしません。

G6はGmaj7と同一のコードとみなされるのでCメジャー・スケールのダイアトニック・コードではない

一方で、Cメジャー・スケールのダイアトニック・コードとしてあげたCmaj7とFmaj7について、C6やF6もコード・トーンがすべてCメジャー・スケール上の音ですから、ダイアトニック・コードとみなすことができます。

Cmaj7とC6、Fmaj7とF6は、いずれもCメジャー・スケールのダイアトニック・コードである

メジャー・スケールのダイアトニックでなにをどう考えるか

ところで、ダイアトニック・コードが何の役に立つのでしょうか。

まず、ソロをするにあたり、ダイアトニック・コードであれば、そのキーのスケール上の音を適当に演奏していればなんとかなるということです(苦笑)。

ソロを学ぶ過程において、正しい音だけを演奏しようとしても、最初のうちはほとんど何も演奏できなくなってしまいますから、度胸というか、一か八かでえいやと音を出してみることが大切だというところがあります(もちろんレベルによりけりですが)。ただし、闇雲に音を出しても得るものはありませんから、最低限、キーやコード・トーンくらいは意識して演奏するのがよいと思います。このとき、今、響いているコードがそのキーに対応するスケールのダイアトニック・コードか否か、もし、ノン・ダイアトニック・コードであれば、どのコード・トーンがスケール上にない音なのかを意識することで、実践的な耳のトレーニングにもなると考えます。

次に、ジャズ・ハーモニーを学ぶ上でダイアトニック・コードは役に立ちます。メジャー・キーにおけるトニック(Imaj7)、サブドミナント(IVmaj7)、ドミナント(V7)のような重要な和声的機能(ファンクション)を持つコードはもちろん、ほかのダイアトニック・コードも曲中において重要な役割を持ちます。また、ジャズでは一時的な転調ではいちいち調号を変更しませんが、ダイアトニック・コードに親しんでいることで、部分的な転調により気づきやすくなるというメリットもあるかと思います。

例えば、スタンダード・ナンバーのThere Will Never Be Another Youは、メジャー・スケールの7つのダイアトニック・コードすべてを使って演奏することができます。また、All Of Meのようにほとんど転調のないシンプルなスタンダード・ナンバーであっても、ノン・ダイアトニック・コードが多く使われている曲もあります。一見してダイアトニック・コードか否かが判断できるようになるまでは、ダイアトニック・コードを丸で、また、ノン・ダイアトニック・コードに三角で囲むというように印をつけるなど、工夫して取り組むことをおすすめします。

マイナー・スケールのダイアトニック・コード

冒頭の話。すなわち、この記事を書くきっかけとなったピアニストとの会話で、「メジャー・スケールのダイアトニック・コードは話題になるけれど、マイナー・スケールのダイアトニック・コードってあまり聞かないよね」という議論がありました。お任せください。私はきちんと整理していますから。

マイナー・スケールのダイアトニック・コードがあまり話題にならない理由として、次の2つがあると考えています。

  1. マイナー・スケールには、ナチュラル、ハーモニック、メロディックの3種類あること。

  2. 3種類のマイナー・スケールから機械的にダイアトニック・コードをつくることができても、実践的に使われるコードが限られていること。

それならば、3種類のマイナー・スケールから機械的につくられるダイアトニック・コードのうち、実践的に使われるコードだけピックアップすればよいと私は考えました。

ナチュラル・マイナー・スケールのダイアトニック・コードで重要なもの

ナチュラル・マイナー・スケールのダイアトニック・コードで実践的に使われるのは次のとおりです。

  • Im7(エオリアン)

  • IIm7$${^{(\flat5)}}$$(ロクリアン)

  • IVm7(ドリアン)

  • Vm7(フリジアン)

  • V7sus4$${^{(\flat9)}}$$あるいは♭VImaj7$${^{(\sharp11)}}$$/V(フリジアン=Vからみて)

  • ♭VImaj7(リディアン)

  • ♭VII7(ミクソリディアン)

Aナチュラル・マイナー・スケールの主要なダイアトニック・コード

少し補足します。

まず、Im7は、トニック・マイナーのうち、エオリアンになる場合です。

IVm7はサブドミナント・マイナーです。マイナー・キーのサブドミナント・マイナーは原則としてナチュラル・マイナー・スケール由来なんですね。♭VII7もときおりサブドミナント・マイナー代理として使われることがあります。例えば、ケニー・ドーハムのBlue Bossaの3-4小節目はIVm7ですが、ジョー・ヘンダーソンのPage One所収の初録音を聞くと、4小節目が♭VII7で演奏されていますが、これはサブドミナント・マイナー代理です。こんにちでは、IVm7のまま演奏されるケースも少なくないように感じます。

Blue Bossaの1–4小節目

それから、IIm7$${^{(\flat5)}}$$は、V7に先行して、いわゆる「マイナー・トゥ・ファイブ」を作ります。私は、V7の関係コードといってはどうかと提唱していますけれども、本家であるV7からIIm7$${^{(\flat5)}}$$が分家したというイメージです。サブドミナント・マイナー代理というよりも実践に近いのではないかなと思いますが、これ自体がひとつの記事になるのでまたの機会にします。

♭VImaj7はあまり出てきません。マイナー・キーの「イチ・ロク・ニ・ゴ」の「ロク」はほとんどの場合、VIm7$${{^{(\flat5)}}}$$が使われるのですが、ごくまれに♭VImaj7となる場合があるようです。例えば、マル・ウォルドロンのCat Walkとい曲の冒頭がそうです(アルバムLeft Aloneに収録されています)。

Cat Walkの1–2小節目

ナチュラル・マイナー・スケールのダイアトニック・コードを機械的につくると、5番目はマイナー・セブンス・コードVm7になります。確かに、マイナー・キーでVm7が使われることがあって、すぐ思い浮かべるのがルイス・ボンファ作曲のManhã de Carnaval(Black Orpheus)のエンディングです。これはフリジアンでしょう。

Manhã de Carnavalのエンディングの例(Nara Leão)

しかし、フリジアンに対応するコードは2つあって、ひとつはマイナー・キーのVm7やメジャー・キーのIIIm7におけるフリジアンですが、もうひとつは、短9度を伴うドミナント・セブンスのsus4と表記されることのあるコードにおけるフリジアンで、これはChick Corea作曲のBud Powellという曲(紛らわしい)の、途中のメロディが途切れるところに出てきます。このコードは、増11度を持つメジャー・コードの長7度ベースと表記されることもあり、Bud Powellの譜面ではむしろそのように表記されるでしょうか。しかしながら、これはナチュラル・マイナー・スケールの5度というわけではありません。マイナー・キーの5度として使われる典型的な事例は、Dear Old Stockholmのイントロ部分でしょう。ここがまさしくナチュラル・マイナー・スケールの第5モードとしてのフリジアンであり、コードはV7sus4$${{^{(\flat9)}}}$$で、これは、♭VImaj7$${^{(\sharp11)}}$$/Vと書くこともできます。

Bud Powellの31-36小節目
Dear Old Stockholmのイントロの例(Miles Davisのアルバム’Round About Midnight)

メロディック・マイナー・スケールのダイアトニック・コードで重要なもの

ナチュラル・マイナー・スケールがマイナー・キーのさまざまな場面で使われるのに対し、メロディック・マイナー・スケールが使われるのは、主にトニック・マイナーとその代理コードにおける場面に限られます。したがって、メロディック・マイナー・スケールのダイアトニック・コードが実践的に使われるのは、次のうち最初の3つと考えてよいでしょう。

  • Immaj7、Im6(メロディック・マイナー・スケール)

  • IV7(ミクソリディアン♯4=メロディック・マイナー・スケールの第4モード)

  • VIm7$${^{(\flat5)}}$$(ロクリアン♯2=メロディック・マイナー・スケールの第6モード)

  • 〈V7(ミクソリディアン♭6=メロディック・マイナー・スケールの第5モード〉

Aメロディック・マイナー・スケールの主要なダイアトニック・コード

トニック・マイナーは、メロディや曲想によって、Im7のとき(エオリアンまたはドリアン)と、Immaj7やIm6のとき(メロディック・マイナー・スケール)、どちらでもよいときの、3つのケースが考えられます。例えば、ホレス・シルバーのNica’s Dreamの冒頭の2小節はImmaj7であって、Im7ではありません。

Nica’s Dreamの冒頭

IV7が、トニック・マイナーの代理コードとして使われる場合があります。例えばビリー・ストレイホーンのChelsea Bridgeの1小節目はIm6(あるいはImmaj7)ですが、これをIV7で演奏することができます。この場合のIV7はトニック・マイナー代理と考えられますが、このときのIV7は、ミクソリディアン♯4、すなわち、そのキーに対応するメロディック・マイナー・スケールに基づいています。

Chelsea Bridgeの冒頭

マイナー・キーの「イチ・ロク・ニ・ゴ」の「ロク」は、ほとんどの場合VIm7$${^{(\flat5)}}$$となります(例えば、シグマンド・ロンバーグ作曲、Softly, As In A Morning Sunriseの冒頭)。このコードは、トニック・マイナー代理と考えられます。このとき、ロクリアン♯2スケールを想定するのですが、これは、そのキーに対応するメロディック・マイナー・スケールに由来しています。

Softly, As In A Morning Sunriseの1-4小節目の例

V7もいちおうあげておきました。ジョゼフ・コスマ作曲のAutumn Leaves(Les Feuilles mortes)の6小節目のメロディに対してV7のコードで演奏するのであれば、現象としてメロディック・マイナー・スケールになっていると考えられます。しかしながら、ソロにおいてこのようなスケールを想定することはありませんので、ほとんど無視してもよいといえるでしょう。

Autumn Leavesの5-7小節目の例

ハーモニック・マイナー・スケールのダイアトニック・コードで重要なもの

ハーモニック・マイナー・スケールは、原則としてマイナー・キーにおけるドミナントV7に限って想定されます。したがって、ハーモニック・マイナー・スケールのダイアトニック・コードは、ドミナントV7とその代理コードをおさえておけばよいことになります。

  • V7(フリジアン♯3=ハーモニック・マイナー・スケールの第5モード)

  • VIIdim7(ハーモニック・マイナー・スケールの第7モード)

Aハーモニック・マイナー・スケールの主要なダイアトニック・コード

マイナー・キーのドミナントV7は、原則としてはハーモニック・マイナー・スケールの第5モードであるフリジアン♯3スケールを想定します。ただし、オルタード・スケールとなるケースも少なくありませんけれども、今回は深入りは避けます。

VIIdim7は、ディミニッシュ・コードの形をとっていますが、ディミニッシュ・スケールに対応していないことに注意してください。つまり、実態としてはV7$${^{(\flat9)}}$$/VIIのルート省略したものと考えることができます。分子のV7$${^{(\flat9)}}$$はもちろんハーモニック・マイナー・スケールであり、分母であるベース音からみるとこれがハーモニック・マイナー・スケールの第7モードということになるのです。例えば、ロジャーズ・アンド・ハートのMy Funny ValentineのセクションAの2小節目をこのVIIdim7で演奏する場合に該当するでしょう。メロディとの関係から、このディミニッシュ・コードに対してディミニッシュ・スケールが想定できないことは明白です。このように、ディミニッシュ・コードでありながらディミニッシュ・スケールに対応しないものを、私は個人的に「偽ディミニッシュ」と呼ぶことにしています。ほかに、「偽ディミニッシュ」の典型的な例は、メジャー・キーの♯Idim7があります。

My Funny Valentineの冒頭の例

3つのメジャー・スケールとダイアトニック・コード

すでに見てきたようにマイナー・スケールには3種類あることはよく知られているのですが、実は、メジャー・スケールにも3種類あることはそれほど知られていないようです。マイナー・スケールと同様に、ナチュラル、メロディック、ハーモニックの3種のメジャー・スケールがあります。

単に「メジャー・スケール」と呼んでいるものは、ナチュラル・メジャー・スケールです。いわゆる「ドレミファソラシド」のことですね。これに対して、6番目の音である「ラ」を半音下げたものがハーモニック・メジャー・スケール、6番目と7番目の音(「ラ」と「シ」)をともに半音下げたものをメロディック・メジャー・スケールといいます。

3種類のメジャー・スケール

メロディック・メジャー・スケールとそのダイアトニック・コード

さっそく、メロディック・メジャー・スケール(「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド」)とそのダイアトニック・コードを見てみましょう。

機械的に7つのダイアトニック・コードをつくることができますが、重要なものは次の3つです。

  • IIm7$${^{(\flat5)}}$$(ロクリアン♯2=メロディック・メジャー・スケールの第2モード)

  • IVmmaj7・IVm6(メロディック・マイナー・スケール=メロディック・メジャー・スケールの第4モード)

  • ♭VII7(ミクソリディアン♯4=メロディック・メジャー・スケールの第7モード)

Cメロディック・メジャー・スケールの主要なダイアトニック・コード

メジャー・キーの曲においてもサブドミナント・マイナーはしばしば使われます。このとき、メロディ等によって、IVmmaj7やIVm6が適切な場合、IVm7が適切な場合、それにどちらでもよい場合があるのですが、メジャー・キーのサブドミナント・マイナーは原則としてIVmmaj7やIVm6の形をとり、IVm7となるケースのほうが例外と考えるほうがよいでしょう。そして、IVmmaj7やIVm6は、いずれもメロディック・メジャー・スケールのダイアトニック・コードです。決して借用和音ではなく、れっきとしたメジャー・キーで使われる代表的なコードなのです。

例えば、ハリー・ウォーレン作曲のThere Will Never Be Another Youの26小節目のサブドミナント・マイナーは、そのときのメロディからIVmmaj7やIVm6とする必要があります。したがって、この局面においては、そのキーのメロディック・メジャー・スケールを想定することになります。メロディック・メジャー・スケールの第4モードは、メロディック・マイナー・スケールと同じです。

There Will Never Be Another Youの25-26小節目の例(1)

マイナー・メジャー・セブンス・コードやマイナー・シックスス・コードと、そのルートから始まるメロディック・マイナー・スケールを関連させる習慣が身についている人もいることでしょう。マイナー・メジャー・セブンス・コードやマイナー・シックスス・コードは、マイナー・キーのトニック・マイナーと、メジャー・キーのサブドミナント・マイナーで主に使われます。前者は、メロディック・マイナー・スケールの第1モード、後者はメロディック・メジャー・スケールの第4モードであり、結果としてどちらもメロディック・マイナー・スケールということになります。

メジャー・キーにおけるサブドミナント・マイナーの代理コードとして♭VII7をあげることができます。There Will Never Be Another Youの26小節目のサブドミナント・マイナーは、後半2拍を♭VII7に置き換えることができますし、また小節全体をこのコードに置き換えてしまっても構いません。いずれにしても、機能的にサブドミナント・マイナーであることは変わらず、どちらの場合であっても、メロディック・メジャー・スケールが前提となっています。

There Will Never Be Another Youの25-26小節目の例(2)(3)

さて、メジャー・キーにおいて、いわゆる「トゥ・ファイブ」の「トゥ」は、たいていIIm7のようにマイナー・セブンス・コードで演奏されます。しかし、メロディや曲想によってはIIm7$${^{(\flat5)}}$$が選択されるケースがあります。例えば、コール・ポーターのI Love Youの冒頭の「トゥ・ファイブ・ワン」の「トゥ」は、メロディとの関係からIIm7$${^{(\flat5)}}$$で演奏されます。これは、メロディック・メジャー・スケールが前提となっています。ハーフ・ディミニッシュ・コードは、ふつうロクリアンかロクリアン♯2のどちらかを想定しますが、メロディック・メジャー・スケールの第2モードはロクリアン♯2です。メジャー・キーのIIm7$${^{(\flat5)}}$$は、長9度のテンションが好んで使われますが、このテンションは、メロディック・メジャー・スケール上の音です。このことからも、メジャー・キーのIIm7$${^{(\flat5)}}$$が借用和音ではなく、れっきとしたメジャー・キーに属するコードであることは明白でしょう。

I Love Youの1-2小節目とロクリアン♯2

ハーモニック・メジャー・スケール

ハーモニック・メジャー・スケールについても、少しだけ触れておきましょう。

ハーモニック・メジャー・スケールから機械的につくられる7つのダイアトニック・コードのうち重要なものは、5番目のV7くらいでしょう。このコードは、通常のメジャー・スケール(ナチュラル・メジャー・スケール)上に存在しているため、それほど重要視されることはありません。

ここで、キーをCとして、このV7(G7)とCハーモニック・メジャー・スケールの第5モード(G・A♭・B・C・D・E・F)との関係をよく調べてみましょう。すると次のことが分かります。

  • G・B・D・Fは、G7のコードトーン

  • Cは、G7のアボイド・ノート(完全4度)

  • A♭は短9度のテンション

  • Eは長13度のテンション

Cハーモニック・メジャー・スケールの第5モードとG7

ドミナント・セブンス・コードで短9度と長13度のテンションの組み合わせというと、半音-全音ディミニッシュ・スケールが真っ先に思い浮かぶことでしょう。

しかし、ここで私は敢えてハーモニック・メジャー・スケールの第5モードを視野に入れることも提案したいと思います。

例として、Seymour SimonsAll Of Meの最後の「トゥ・ファイブ・ワン」(29-31小節目)をあげてみましょう。仮にキーをCとすると、30小節目のメロディはEとなり、この音はG7の13度のテンションにあたります。そして、気の利いたピアニストやギタリストであれば、ここで、G7$${^{(\flat9, 13)}}$$というテンションでボイシングするはずです。短9度のテンションA♭はG♯と異名同音の関係にありますから、E/G7のようなアッパー・ストラクチャー・トライアドになっています。このA♭は、30小節目のメロディからは導き出すことができませんが、ストレート・メロディをみると29小節目の3拍目に存在しています。

All Of Meの29-31小節目の例

All Of Meが作曲された1920年代のデトロイトに、半音-全音ディミニッシュ・スケールを伴うドミナント・セブンス・コードがあったかどうかは分かりません。それよりも、それ以前から確実に存在していたハーモニック・メジャー・スケールを想定するほうが自然ではないかと個人的には考えます。

ただし、ハーモニック・メジャー・スケールがソロラインをつくるときに活用されるということはほとんどないでしょう。したがって、ハーモニック・メジャー・スケールは、ジャズの即興演奏においてそれほど重要でないということについても私はきちんと述べておきたいと思います。

まとめ

ダイアトニック・コードについて駆け足で見てきましたが、いかがでしたか。

ダイアトニック・コードといえば、メジャー・スケールの7つが有名でしたが、マイナー・キーにおいても重要なコードのいくつかが、3つのマイナー・スケールのダイアトニック・コードとして存在していること、また、メジャー・スケールのノン・ダイアトニック・コードとみなされがちなコードのなかにも、メロディック・メジャー・スケールを想定することで、れっきとしたメジャー・キーの重要なコードとして捉えることができることが理解できたのではないかと思います。

ジャズでは、4つめのマイナー・スケールとしてドリアンも含めるべきだという意見もあります。これについて否定的な意見もありますが、仮にドリアンもマイナー・スケールの一種だとみなすとしたら、それに基づく7つのダイアトニック・コードのうち重要なものはどれか、また、そのとき想定するスケールは妥当かどうかについて、もし興味があれば、実際の楽曲や録音なども手がかりにしてご自身で検討してみると面白いでしょう。

今回の解説が少しでもジャズ・ハーモニーに興味関心を持ち、また、理解や演奏の役に立つとすれば嬉しく思います。最後までありがとうございました。

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