見出し画像

どうして作りたいと思ったのか?② 会社員時代の鬱々からの出発

序文のような (図鑑に憧れる)

本を作りたいな、と初めて思ったのは5年半前。北海道のフレンチレストランで働き始めた時じゃないかな、と振り返って思う。パプアニューギニアの文化記録を行いたい、という個人的な活動の想いを胸に、約2年最北の小さな島マヌス州の州政府市民局で働かせて頂いて、帰国してすぐのことだった。

結局のところ、文化という非常に広い、見方や論じ方によって何にでもなるような言葉に、翻弄されたというか自分なりの見方で解釈をできなかったのだと思う。料理という方向性は協力隊時代を経て定まるけど、記録するということに対して何もできず、カタチにできず、写真やメモの素材だけを日本に持ち帰り、自分の力量不足、敗北感のままにレストランに就職した。その北海道で「東南アジアの食と暮らしの記録」に関する本を図書館でたまたま見つけた。「こんなんあるんだ!」と感心し驚いたのが記憶に新しい。その本は図鑑のように写真と説明、イラストという構成になっていたと覚えている。

画像1

Photo: sinsin, Mask Festival, Kokopo, Papua New Guinea, 2014

会社員時代の鬱々から始まった

「アジアの文化保存に寄与すること」という意義に生きようと意気込むきっかけになったのは、2013年に東南アジア、ネパール、インドを約3ヶ月バックパックした旅の途中で感じた悲しさだとはっきり記憶している。

その話の前に会社員での経験が大いにこの旅に出る機を育てたので、書き記そうと思う。

大学卒業の年、周りの友人たちと同様に就職活動をして、入りたい企業や興味のある職種を探してはエントリーシートに履歴書を書いたり、説明会を受けに行ったりとそれなりに忙しくした。ホテル業や資材のメーカー、社員食堂、食品メーカーなど色々な業界を受けた。第一志望の企業に最終面接で振られるなど、紆余曲折を経て、最終的には食品メーカーの営業職として働くことになる。

就職前に漠然と期待していた新たな生活像は現実にぶつかり、抽象度の高かった像は実際の生活になり、それはやはり期待通りの「うだつの上がらなさ」だったし「会社勤めの苦しさ」だったと鮮明にある。大幅に超える残業は営業手当という労いのない制度でカバーされ、ひどい月は時給は600円を大きく下回る。平日は仕事に疲れ、休日に逃げ込むような生活。時には食事も喉に通らないほどこの将来に対して絶望していた。

嫌だった。誰のために、何のために自分はこの仕事をしているのか。売りたくない商品を強いて売ることのある意味で自分に対して嘘をつく虚しさ。手応えがまるでない、仕事は自分の生活のためであって、名誉のためでも、今後の計画のための技術や資金調達のためでも、顔の見える誰かのためでもなかった。きっと顔の見えない誰かの笑顔になっているんだろうと予想はしていたけど空虚だった。

社会的な体裁を整えるために就職したという次元の話でもなく、ベルトコンベアーのように高校を卒業して、学びたいものがあるわけでもないのに大学になんとなく入り、卒業後も一般的に就職するものだから程度の就職だったと思う。

この会社で働いて、贅沢はできないけど生活に困窮するわけではない。それなりの生活をして、この先もそうなんだろうと容易に想像ができた。上司の顔がそう言ってた。じわじわとゆっくり死んでいっている感覚、生きながら死んでいる気がした。怖かった。死ぬのが怖いんじゃない。生きているのに死んでいる感覚が。日々は展望のない虚しさと悲しさに浸った。

今に生きられず過去を回想して何度も他の会社だったならと「たられば」と繰り返し後悔し、未来を上手く想像しようとポジティブな言葉を漁る休日。新社会人として当たり前の境遇に陥っているだけだと言い聞かせるも、虚しい日々は続いた。

もちろん、この時点から思い返して、浅はかな考えからの後悔で自業自得だし、拾ってもらっただけでも有り難いこと。思慮も足りていない。企業からすると使えない新人で貧乏くじを引いたようなものなのだと想う。実際そうだ。だけど、一個人の完全な主観で、体感で感じた会社員時代は、強引に一言でまとめるなら辛いものだった。それが良かった。必要だった。この時点からなら肯定的にはっきりそう言える。

鉄板での調理, Popondetta, Papua New Guinea, 2016

photo: 鉄板での野外調理, Popondetta, Papua New Guinea, 2016

言葉にするってなかなか長くなりますね。しかも説明がしきれない。文字は伝えるのにとても有効だけど、限界もあるなー。当然か。

ではまた!

cover photo: カチナ祭のお布施, Galle, Sri Lanaka, 2018

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?