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KADOKAWA『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』刊行中止について思うこと

KADOKAWAが『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(アビゲイル・シュライアー著、岩波明監修、村山美雪、高橋知子、寺尾まち子訳)の刊行中止を発表した。

当事者の一人として残念に思うし、危機感も覚える。そして同様な考えを持つ当事者もけして少なくないと考えている。

『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』
確かにこのタイトルは誤解を招く。しかし一方で、欧米で若者のデトランス(性別移行のための手術を受けた後、後悔して元の性別に戻ること)が社会問題化している現状を鑑みると、このタイトルのような側面が全くないとは言い切れないのではないか。

思春期に自分の身体が男性化・女性化していくことに抵抗を感じるのはトランスジェンダーに限らない。その抵抗感を「性別違和」と錯覚してしまう可能性は充分にある。あるいは「仲良しの友達がトランスジェンダーだから」という理由で無意識に自分もそうだと思い込もうとするケースもあるかもしれない。

LGBTQはけして「影響されてなる」ものではない。だが特に思春期にはそう錯覚するリスクも念頭に置き、何をどのように教えるか・教えないかを慎重に検討するべきだ。

本書は米国で12万部を突破し世界10カ国語で翻訳されている。一方で内容の正確性、客観性に疑問があると指摘されており鵜呑みにするのも危険だ。とはいえ今回の刊行中止は、LGBTQに関する問題提起や懸念を表明するだけで「差別だ」と責められ、本当に必要な議論がなされない今の現状を象徴しているようだ。今の日本に必要なのは、特定の言説をタブー視したり攻撃するのではなく、多様な立場からの意見を等しく俎上に載せてオープンに議論することだろう。

本書の刊行中止を求めた人々からは「本書の刊行がトランスジェンダー当事者の安全・人権を脅かしかねない」という意見が見受けられた。私は逆だと思う。

トランスジェンダーに関わる教育や医療についての議論の機会が奪われることで、本来は必要のなかった手術や思春期ブロッカー(またはホルモン投与)を受ける若者を生み出してしまうかもしれない。それが本人の人生にどれほど重い影響を与えるのか、大人は真剣に考える責任があるはずだ。

また今回の刊行中止によってトランスジェンダーに関する議論はますますタブーになり、腫れ物扱いになる。それがやがて“本当のヘイト”に変わっていくかもしれない。

先日読んだ「LGBTの語られざるリアル」(ジェイソン・モーガン・我那覇真子著)では下記のように述べられていた。

「自分はトランスジェンダー」だと思っている人が手術をすると、手術をしない人より自殺率が高い

「LGBTの語られざるリアル」(ジェイソン・モーガン・我那覇真子著)

出典の記載がなかったため真偽は不明だが、率直な印象を言えばさもありなんだ。私自身、手術を受けたことでよかったことが沢山ある。同時にだからこそ「どこまで身体を傷つけたところで結局“本当の男”にはなれない」ことに打ちのめされもしたからだ。

トランスジェンダーの若者にとっても、一時的にそう錯覚してしまう人にとっても、手術は慎重に慎重を重ねて検討されるべき理由はここにもある。

LGBTQに関する教育やルール変更が行われることで救われる当事者もいるはずなので、それ自体に反対したいわけではない。ただ充分に議論が尽くされてほしい。特に若者に関わることには慎重を期してほしいというのが私の願いだ。

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