亀甲縛りされたJKがすごいことになっちゃう話

 この文章には「性的な表現⚠」「性的な描写⚠」が含まれています。

 とくに、まだ15さいになっていないひとると、とてもこわいことになってしまうかもしれません。
 よくわからないひとは、るまえにしんじられる大人おとなの人にきいてみてください。


 私は縄稚なわち結維ゆい、おうし座の高校二年生。
 パパと二人暮らしってこと以外は、お菓子と体重と隣のクラスの下出しもで君が気になる、ごく普通の女子高生。
 だと、思ってた。ううん、思いもしなかった。自分がどれだけ平凡な毎日を送ってたかなんて。
 自分が普通の女の子じゃなくなっちゃう、あの日までは――。

     ☆

 すっかり日の暮れた人気ひとけのない住宅街を、一人の制服女子高生が歩いていた。
 その道は彼女、すなわち縄稚なわち結維ゆいにとって見慣れた帰り道。結維はいつもの通りをすたすたと歩いてゆく。
 その目の前に、それは突然飛び出してきた。
「きゃっ!」
 黒い影が、じっと結維を見つめている。
「……なんだ、ネコか……。あれ?」
 結維はじっと、目の前の動物を見つめる。その黒っぽい動物は確かにネコくらいの大きさだったが、体は細長く顔の真ん中には白い線が入っている。
――もしかしてこれ、ハクビシン? わー、初めて見たー!――
「ほら、おいでおいで」
 そう言って結維が近づくと、ハクビシンはすぐ脇のブロック塀に飛び乗ってその奥へ消えてしまった。
「行っちゃった……」
 結維は再び歩きだし、次の角を左に曲がる。曲がった先で、結維は再び足を止めた。
――えっ、嫌だ……。誰か座りこんでる……――
 結維の前方で、誰かがブロック塀にもたれかかって座り込んでいたのだ。結維の視線が、恐る恐るその顔に向かう。
「えっ? 下出しもで君? ちょっと、大丈夫?! って、やだ。なんで下はいてないの?!」
 駆けよった結維は、パンツモロ見えの気になる男子を前にして、思わず両手で顔をおおう。
 しかし、開かれた指のすき間から結維はしっかりそのパンツをのぞき見る。
――下出君、ブリーフ派なんだ……。やだ。男の子のあそこって、あんなに大きいんだ……――
「なっ、縄稚?!」
「えっ、大丈夫だから! 何も見てないから!」
「縄稚! 来るな! 逃げろ!」
「えっ?」
 その時、見知らぬ女の声が結維の鼓膜を揺すった。
「あなた、意外と可愛い顔してるじゃない。そっちの子は? お友達かしら? いいわよ。女の子をめる趣味はないけど、二人まとめて可愛がってあげる」
 そう言って結維の前に現れたのは、乱れた長髪の不気味な女だった。街灯に照らし出された女の目は、夜闇よりも深い闇をたたえている。
 ぞわっと結維の体に悪寒が走る。見るからにその雰囲気は普通ではない。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 女は突然、首にぶら下げた赤い紐の両端をそれぞれの手で握って逆方向へ引っ張った。女の首が勢いよく締め上げられる。
「えっ、やば……」
「ッ、ッ、ッ……!」
 女が自分で自分の首を締めあげながら口をパクパクさせ、冷たいアスファルトにぽたりぽたりと涎を垂らす。
「やっ、やばいよ……。逃げようよ下出君!」
「縄稚、逃げてくれ。俺はちょっと、動けないんだ……、おい!」
 結維は地面に座り込んでいる下出の腕を肩に担ぐと、立ち上がる。
「下出君を置いてなんていけないよ! 逃げよう!」
「縄稚……。でも、そんな余裕は――」
「アァ~……」
 下出が言い終わらない内に、女の漏れ出すような声が二人の意識を奪った。女が結維たちに襲いかかる。
「えっ、きゃっ!」
 突然、下出に突き飛ばされ、結維はアスファルトの上に尻もちをつく。その横を女の細腕が通り過ぎる。
 瞬間、ボゴォン! とすさまじい音がして砂煙が立ち上った。女の細い腕がブロック塀を粉砕したのだ。
「嘘……」
 女の顔がゆっくりと、結維の方に向けられる。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 ギョロっとした目が結維を捉える。
「いや……」
「縄稚! くそっ!」
 女を挟んで結維の反対側に座り込んでいた下出が、生まれたての仔羊のように立ち上がり、震える拳を握って女に打ち出す。
 が、女はびくともしない。ゆっくり下出の方を振り返ると、平手で下出の頬をはたいた。
 ボゴォン! と再び凄まじい音がして、下出の頭がブロック塀にめり込み砂煙に包まれる。
「そんな……、いや……」
 絶望の中で女の黒い後ろ髪を見上げる結維の網膜に、ゆっくりとあの恐ろしい顔がまた映ろうとしている。耳が見え、頬が見え、鼻が見え、そして――。
「そこまでだ!」
 辺りに声が響き渡った。
「?! 誰、ダ……?」
 シュタッと結維たちの傍らに何者かが着地する。
「人が思いが世の中が、この身をいかに縛ろうと、沸き立つ情緒は縛れない! 縄で己を縛り上げ、それでも止まらぬ我が情欲! 亀甲マン! 参ッ、上ッ!」
 それは、亀甲縛りされたおっさんだった。
「大丈夫か結維?! もう大丈夫だぞ。パパが来たからな」
「嘘……、パパ……?」
 それはまぎれもなく、結維のパパだった。
「亀甲マン……、ダト……。オ前ハモウ、引退シタハズジャ……」
 女が人間業とは思えないジャンプ力で飛び退く。
「ああ。だが、娘の危機に再びこの身を縛り、帰って来た! 帰ってきた亀甲マン!」
 名乗りを上げるなり走りだす結維のパパ、亀甲マン!
「ヌゥゥ……、マズイ……」
 女がさらに後ずさる。
「ぬはぁっ!」
 突然、女までの道半ばで亀甲マンが声を上げ、前のめりに倒れ込んだ。
「パ……パパ?」
「ナニガ、起キタ……」
 地面に倒れ、亀甲マンが悶える。
「腰……が……」
「……フッ。フフ。フフフフフ。亀甲マン引退ノ理由ハ腰痛ダトハ噂サレテイタガ、マサカ本当ダッタトハナァ。イヤ、哀レ、哀レ」
「嫌だ……、パパ……。こんな時にぎっくり腰なんて……」
「フフフフフ。マズハオ前ノ目ノ前デ、娘ヲジックリイタブッテ殺シテヤロウ……。ハァ、ハァ、ハァ……」
 女が息荒く、ゆっくり結維の方へ歩いてくる。繰り返し襲い来る絶望に、結維の心はもう、限界を迎えようとしていた。その時――。
「結維。あなたが戦いなさい」
 どこからともなく声が聞こえ、シュタッと結維の真横に小さな黒い影が降り立った。
「……えっ? さっきのハクビシン?」
「結維。お父さんと同級生を助けたいなら、あなたが戦うしかないわ」
「……ハクビシンが、喋った?」
 驚く結維をよそに、ハクビシンは結維の目の前に縄を投げる。
「それで、結維が戦うのよ」
「戦うって……何? どういうこと?! もう、わかんないよ!」
白眉ハクビ!」
「パパ?」
「白眉! 駄目だ! その子は修行を最後までやっていない! だから、その子は戦えない! 俺が……、ぐぬわぁっ!」
「貴方、その腰じゃもう戦えないじゃない」
「だが……、しかし……」
「修行? 何? なんなの? どういうこと?」
亀甲縛剛術きっこうしばりごうじゅつは一子相伝。縄稚家は代々、亀甲縛剛術を受け継いで世に蔓延はびこる変質者を掃討して来たの。変質をもって変質を制す、ということね。でもね、結維のパパはそれを終わらせたのよ。あなたはまだ幼かったから覚えていないでしょうけれど、修行の度に亀甲縛りされて泣きわめくあなたを見て、こんなことは出来ないと一族のわざを捨て、パパは娘の幸せをとったのよ……」
「そんな……、嘘……。パパ……」
「そうだ! だから逃げろ結維! お前は戦えないし、お前が戦う必要もないんだ! 結維! 逃げてくれ!」
「パパ……」
「結維。あなたが自分で決めなさい。パパと同級生を見捨てて逃げるか、この縄であの女を倒し亀甲縛剛術を継ぐか……」
「そんな……」
――そんなこと急に言われてもわかんないよ!――
 結維の頭の中に、下出君のことやパパのことや不気味な女のこと、目の前の喋るハクビシンのことが浮かんでごちゃごちゃになってこんがらがる。まるでヘタクソな縄師が扱った後の縄のように……。
「ああもう!」
 勢いよく立ち上がる結維。その手にはしっかりと縄が握られている。
「わかったわよ! やってやろうじゃない!」
「結維!」
 パパの声を無視して、結維はハクビシンに問う。
「どうすればいいの」
「フフ。それでこそ、あの人の子だわ。結維。あなたの中には亀甲縛りされることで人並外れた力を出すことのできる縄稚家の遺伝子と、深層心理の奥底に仕舞い込まれた厳しい修行の記憶が眠っている。ただ、ポーズをとって、叫びなさい。体はもう、わかっているはずよ」
「ポーズ? 叫ぶ? そんなこと言われても……」
 そう言いながら縄を見た結維の体に、ドクンと衝動が走る。
 結維は体の奥底から噴き出す衝動に身を任せ、なまめかしく腕をうねらせると、手にした縄を前に出す。
「変身!」
 刹那、ハクビシンが跳び上がり、結維の手にした縄に食らいついて、目にも止まらぬ速さで結維の体を縛り上げる。
 きゅるるん! と縛られ強調される、慎ましやかだった乳房のふくらみ。
 きゅるるん! と縛られ強調される、なまめかしい曲線をえがく腰つき。
 きゅるるん! と作られた結び目に、スカートの上から刺激される陰部。
「あっ……、やだ……。なにこれ……」
――あそこが、刺激されて……。これ……、これ……――
 あっという間に制服の上から亀甲縛りされてしまった結維。
 その姿を見て、遠巻きに結維たちのやり取りを眺めていた女が笑う。
「馬鹿メ。素人ガ亀甲縛リサレ、両腕ヲ縛ラレテ、マトモニ戦エル訳ガナイダロウ。ダガ、アノ亀甲マントソノ後継ギノ死体ヲ揃エテ献上スレバ、アノオ方モ褒メテクレルダロウ……。退屈ナメロドラマヲ見セラレナガラ待ッタカイガアッタゾ……。フフフフフ……、死ネェ!」
 女が走り出す。
「結維! 危ない! 逃げろ! くっ、あっ! 腰が!」
「えっ? やば! どうすれば、ってハクビシンは?!」
 周囲に視線を巡らすが、ハクビシンの姿はいつの間にか消えていた。戸惑う結維の目の前に女が迫る。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「やばっ!」
 ――あっ、これ死んだ――そう思った。
 女の平手が結維を襲う。
「アアァ!」
 悲鳴が周囲に響き渡る。
「……あれ?」
 結維は、張り手を受けた頬がかすかに痛むもののぴんぴんしている。
 対して目の前の女は、あり得ないくらいに反り返った右手をおさえて悲鳴を上げている。
「亀甲とはすなわち亀の甲羅。亀甲縛りされた結維の体は今、自然界における亀の甲羅のような防御力を誇っているの」
「?! ハクビシン!」
 声のした足元の方を見ると、いつの間にやらハクビシンが戻ってきていた。
「結維、体に力がたぎってるでしょ?」
「えっ? うっ、うん……」
 太ももをもじもじさせる結維。
――たしかに、あそこに結び目が当たって、なんか、すごい力が湧いてきちゃってるけど……――
「さあ、結維。次はあなたが攻める番よ」
「私が攻める番? そんなこと言われても……」
「精神を集中させて! 心を無にしようとしてみなさい!」
「あっ! 待って!」
 ハクビシンは結維の言葉をその尾で受け流し、塀の向こうへ消えてしまった。
「フゥ、フゥ、フゥ……」
 不気味な呼吸に振り向くと、右手のひん曲がった女がこちらを見ていた。大きく見開かれた瞳孔は深淵から溢れる闇のように真っ黒で、その口には首から下げた紐の片方がくわえられている。
「フゥ、フゥ、フゥ……、フゥ~!」
 突如、女が左手で勢いよく紐を引き、自身の首を締める。顔をよじって口と左手で首を絞める女の目は、それでもぎょろっと結維を見つめて逃さない。結維を見る目、それでいて、どこか遠くを見ているような焦点の定まらない目。
 ぞくっと結維の体に悪寒が走る。
――やらないと、やられる……――
――心を無に、心を無に……。ああ、ダメ! できないよ! どうしても意識が、あそこにいっちゃって……――
「あっ!」
 結維が声を漏らしたその瞬間、女もこちらに向かい動き出した。
「許サナイ! 許サナイ!」
 左手を振り上げて襲いかかる女。
 結維は女に、背を向ける。
「ユルサナイィィィィィ!」
 刹那、振り向く結維。
 ――〝亀甲見返美人きっこうみかえりびじん 甲蹴かぶとげり〟!
 見返る勢いを乗せた回転蹴りが、女の顎を打ち抜く。
 ゴギャァッ! 女の体が顎ごと吹き飛び、打ち砕かれた塀から立ち上る砂煙に消える。
「パパにかわってお仕置きよ……!」
 砂煙を背負い立つ結維。
 遠いアスファルトに伏してそんな愛娘を見上げていたパパに、ハクビシンがそっと寄り添う。
「だから言ったでしょ。あの子は、天才だって」
「ああ……。あの子は、天才だ……」

 晴れていく砂煙の中、ぼやけた街灯の灯りを見上げ、女は過去の記憶に意識を奪われる――。
「はぁっ、はぁっ。好き。大輔、好き」
「俺……も……、好き……だよ……。真、由……」
 ベッドの上で、男女が乱れ合う。
 女が男に覆いかぶさり、二人は激しく愛し合う。
「真由……」
「なに? はぁっ、はぁっ」
「もっと……、強く……」
「えっ……、はぁっ、はぁっ、……大丈夫、なの?」
「……いい、から。……もっと」
「……わかった」
「好き、だよ……。真由……」
「うん……。はぁっ、はぁっ、私も……。はぁっ」
 女は、男の首を絞める手に、さらに力を込める――。
「……大輔?」
 気づいた時、男は息をしていなかった。
「大輔!」
 ――許さない。
 ――許さない。
 ――私は、私を、許さない。
 ――許さない。
 ――許さない。許さない、許さない、許さない。
 ――許さなイ、許サナイ、許サナイ許サナイユルサナイユルサナイユルサナイ!
 街灯の下、女は力を振り絞り、左手で紐をつかんだ。
 首から下がった紐を力なくつかみ、なんとか、なんとか紐を引く。
 はらりと紐が、引かれて落ちた。
 女の首は、締まらない。
「なん……で……?」
 つーっと一筋の涙がこぼれる。

「……なんか、可哀そう」
 自分が倒した女を見下ろしていた結維は、ふと呟いた。
「そうね。変質者たちには、理解され難い性癖を抱えて、欲望の果てで悪魔に魅入みいられ道を踏み外してしまった者も少なからずいるわ……。この女も、そうだったのかもしれないわね。こうなってしまっては、もうどうしようもないけれど……」
「ハクビシン……」
 足元にたたずむ、いつも突然にやってくるハクビシンを、結維はただじっと見つめた――。

     ☆

「パパ! いってきます!」
「ああ、いってらっしゃい」
 ベッドに横になったまま、パパが言う。
 学校に行こうとした私の背中に、パパは言った。
「結維。今日、帰ってきたら話がある……」
「うん。昨日の、ことだよね……」
 昨日はあの後、倒した変質者や壊れた塀の後始末を喋るハクビシンに任せて、私はぎっくり腰で歩けなくなったパパを担いで帰った。
 色々聞きたかったけど、パパは辛そうだったし、私も気持ちの整理がつかなかったから、昨日はあのまま詳しい話は聞かなかったんだ。
 それと、下出君はいつの間にかいなくなってた。たぶん逃げたんだと思う。心配だけど、あんなカッコを見られてなかったのならよかった……。
「……じゃあ、また、帰ってきたらな……」
「うん。……いってきます」
 私はドタドタと急いで玄関に向かう。
 なんでって?
 ――遅刻しちゃうからよ!


『亀甲マン』

第一話「今日から私が亀甲マン?!」

完。……つづく、かも?