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  4

 悪魔城。
 廊下。
 直輝は自責の念に駆られながら、悪魔を探していた。
 少女を人間に戻す薬がどんなもので、どこにどんな風に置かれているのか、何もわからない現状では、薬を探すより悪魔を見つけて、薬の情報を訊き出す方が得策だと……、そう思っていたのだが……。
 先程、やっと目の前に現れた悪魔を、直輝は何も訊かずに気絶させてしまった。
 あれっきり、悪魔は一向に姿を現さない。
 直輝は、扉を見つけては開き、扉を見つけては開きを繰り返していた。
 そしてまた一つ扉を見つけた直輝は、その扉を開いた。
「よう、兄ちゃん。精が出るねぇ。精液は出さなかったクセによぉ」
「!」
 そこそこ広い部屋の中、部屋の一番奥の壁の前に、扉と向き合う形で置かれたソファー。
 その上で、ゆらゆらと炎が揺らめいていた。
 ソファーが燃えているわけではなく、何が燃えているというわけでもないのに、ソファーの上には揺らめく炎が存在していた。
 目の様な模様のある、オレンジ色の炎。
 先程の声はどうやら、その不思議な炎から聞こえたようであった。
「ハハハ、兄ちゃん。そう、警戒しないでくれよ。俺みたいな悪魔は、兄ちゃんみたいな若い男がいてこその悪魔だからよぉ。突然襲いかかったりはしねぇよ?」
「……。」
「いやー、にしても可愛いよね、そのお譲ちゃんは。そんな子と一緒にいると、男はやっぱ滾ってくるよね? 込み上げてくるよねぇ、熱いものが」
「……。」
「ハハァ、そんな目で見るなよ。ホントのことだろぉ? 別に隠さなくたっていいじゃないか。そのお譲ちゃんだってそれぐらいのことはわかってるはずだよ。ねぇ、お譲ちゃん」
「えっ……」
「フフ、その反応も可愛いねぇ。まったく、可愛い子ってのはさぁ、一挙一動が可愛いよね。それは天然なのかい? いったい、どこまでが計算なんだい? ……ハハ、まあいいや。俺はね、ギンギンに熱くたぎる男のアレを糧に魔力を生み出す悪魔なんだよ。いや、アレを糧にってのは比喩みたいなもんだからね。別に兄ちゃんの大事なモンを奪ったりはしないから、安心してくれていいよ。兄ちゃん達がいてこその俺だからね。生み出した魔力でちょっと火を出すぐらいしかできない下級悪魔なんだよ、俺は……」
「……。」
「いやー、それにしても兄ちゃんは無口だねー。まあでも、唐突にこんな話されても返答に困るか。無口って決めつけるのも早計だね」
「……そうですね。」
「ハハ、無口って言ったら途端に返事をするだなんて、兄ちゃんなかなか捻くれものだね。まあ、それはそうと兄ちゃん」
 そう言った炎――悪魔から突然、火の粉が飛び出し少女へと降りかかった。
「きゃっ!」
 火の粉は少女の衣服に降りかかり、触れた部分を一瞬で灰にしてしまった。
「大丈夫ですか?!」
 直輝は言いながら悪魔と少女の間を遮る形で、少女の許に駆け寄った。
「……う、うん」
「なら好かったです。ごめんなさい。」
 少女の衣服に開いた数箇所の穴からは、慎ましやかな胸元と艶やかな太腿が覗いていた。
 直輝は少しの間少女を見つめると、悪魔の方に振り向いた。
「フフフ、兄ちゃん。怒っているかい? ごめんね、お譲ちゃん。でも、今の火の粉は衣服だけを少し燃やすだけで、特に体には影響ないから。安心してよ。それよりも兄ちゃん。どうだい、好きな女の子の体を見た感想は。そのお譲ちゃんは今や、男と交わるサキュバスだ。君は、お譲ちゃんの――かなちゃんのその体を、撫でまわし、舐めまわし、余すことなく堪能してもいいんだよ? フフ。怒っていても、体は正直だろう? 熱くギンギンに、滾ってくるだろう? そして燃え上がるんだ。ほら。ボウッ、って」
 ……。
「なぜだ? なぜ燃え上がらない? 兄ちゃんはそのお譲ちゃんを前にしても、ギンギンに熱く滾らないとでも言うのかい?」
「んなわけねぇだろ。俺のアレはいつだって、熱くギンギンに滾ってるよ。」
「そうだろ? ……じゃあなぜだ? なぜ燃え上がらない? ギンギンに熱く滾るモノの熱を数百倍にするこの力を、いったいどうやって……」
「てめぇの魔力なんかでよぉ、俺の熱さは操れねぇよ。熱くギンギンに滾ってる、俺の魂の熱さはなぁ。俺の魂はいつだって限界突破して、いつでも熱く燃えてるんだよぉ。」
「なっ……」
「てめぇ。よくも俺の大切なもんに、汚ねぇ火の粉をふっかけてくれたなぁ。」
 ドクゥン! ドクゥゥン!
「なっ、なんだ? この音は」
「これか。これは俺の、熱くギンギンに燃え滾る、魂の音だ。」
「たっ、魂の音だって……。兄ちゃん……。ふざけちゃあいけないよ。そんなもの……。熱くギンギンに滾るものの音は、ビクンビクンに決まってるだろ!」
「ビクンビクン? それは、俺の熱くギンギンに燃え滾る魂の音に怯える、てめぇのぬるい魂の音だ。」
「っ!」
 ビクビクビクゥゥゥゥン!
「なぁ。俺の、熱くギンギンに滾る魂の熱さ……。感じてるか。」
「あ、あぁ、感じてるさ。でもなぁ、兄ちゃん。冷静になるんだ。俺の体は炎だ。兄ちゃんいったい何する」
「感じてるんだろ。だったらよぉ……。一気にそのまま、イかせてやるよぉ。」
「いやっ、ちょ」
 喋りながら少しずつ悪魔との距離を詰めていた直輝は、言い終わると一気に走りより距離を詰め、悪魔目がけて右拳を打ち込んだ。
「ぁっ!」
 揺らめく炎は静かになった。
「……。」
 少しの沈黙の後、直輝は少女の方を振り返り思い出した。
「あっ。」
 薬のこと、又忘れてた……。