田沼意次の財政政策

財政政策Ⅰ
問1①1751年から1789年ごろの財政政策
  ②江戸時代の徳川第9代将軍家重から第10代徳川家治にかけて田沼意次が老中として行った財政政策について述べる。田沼が老中に就任する前までは、貯えられてきた幕府の豊富な貯蓄を切り崩しながら悪化する幕府の財政赤字を食い止めようと、経費削減などの伝統的な緊縮政策とともに年貢増徴による財政再建が進めてられていた。しかし、米の収益が頭打ちになったことから年貢収益以外の財政収入増加を考える必要に迫られた。そこで、田沼意次は、①株仲間の推奨、②銅座などの専売制の実施、③鉱山の開発、④蝦夷地の開発計画、⑤俵物などの専売、⑤下総国印旛沼や手賀沼の干拓への着手などの財政政策を実施した。
問2:③ 株仲間や銅座の専売制、俵物などの専売を実施することで、業界への参入障壁を高くし、既存商人の既得権を保護する一方、株仲間を通じて経済統制を行い、営業の独占権を与え、商品価格の下落を抑制することができた。そのためデフレを防止しインフレ目標を達成しやすい。また、国民の消費を誘発させやすい。したがって、国民の貯蓄性向を下落させることになる。
 また、鉱山の開発や蝦夷地の開発計画という拡張的な財政政策を採ることで、政府支出が増大することになる。そのうえ、株仲間に加入している資金力のある商人に、大規模開発計画に参画させることで民間投資を誘導し、投資意欲を上昇させた。
 以上のことから、Is曲線を右にシフトさせることになり、GDPが増大することになる。
④幕府の財政再建を優先させる政策となって、諸大名や庶民にとっては必ずしも利益とはならなかった。また、幕府役人の権限が強まり、賄賂や縁故による人事が横行して、武士本来の士風を退廃させたとする批判がおこった。都市部で町人の文化が発展する一方、益の薄い農業で困窮した農民が田畑を放棄し、都市部へ流れ込んだために農村の荒廃が生じた。
 貨幣の流通はそのままにして、大規模な公共投資や経済統制を行ったので、極度のインフレを招き、商品経済に参加していない農民や庶民にとっては所得上昇の効果を得られず、消費拡大のメリットを享受できなかった。
問3:⑤幕府の財政再建の効果はあった。しかし、幕府による経済統制を強める一方、倫理観が欠如したまま貨幣経済へ移行していったので、幕府役人の恣意的判断を許すことになり、賄賂政治が横行する結果となり、政敵の批判を強く受ける結果となった。
⑥それまでの年貢の収入に頼っていた経済構造から、株仲間や銅座などの経済統制を行って貨幣による収入を企図し、大規模な公共投資によって国民総生産を拡大させることによって、一部の富裕層に限定されてはいるものの所得が増加し、税収増を期待することができた。それによって、それまで米作物の収穫に左右されていた幕府の財政は、貨幣経済への移行を企図することで安定化にむかうはずであった。
 また、金融経済が発達していなかったため、一部の商人や大名を除いて、国民所得は利子率の影響をほとんどうけていなかったのではないかと推測される。そのため、IS曲線はほぼ垂直状態だったと考えられる。

問4: 米作物の収穫に依存する農業主義から貨幣経済へ移行する際に、財政再建を企図して、国民所得を上げようと、大規模な公共投資を行うことは、現代でも通用する財政政策である。財政再建のために政府支出を抑制し緊縮財政を実施するのは、悪手だと考える。公共投資は一見すると、大規模な政府支出を必要とするので、一時的な財政悪化を招くかもしれない。しかし、田沼意次は、財源を株仲間に参加する商人から冥加金を徴収し、大名や大商人にも公共事業に参加させ民間投資を募ることで確保した。また、商品価格を安定化もしくは上昇させマイルドなインフレ政策を実施するために、株仲間や銅座を組織化、専売化して経済統制を強め、デフレに至らない財政政策を実施している点も注目に値する。
 しかし、経済統制を強める過程で幕府役人の恣意的な判断を許してしまい、そこに貨幣経済政策が導入されたため、拝金主義が横行し、賄賂政治の温床となり公正な政治が期待できなくなるという結果に至った。大規模な公共投資を実施し景気を浮揚させる際には、多額の金銭が動くことになるので、平常時以上に政権担当者に強い倫理観が求められるように思うが、田沼意次にはその点の配慮が足りなかったように思う。
 現代においても、大規模な公共投資を行う際には、数字上国民所得が上昇することが予想されても、一部の富裕層や権力者に富が偏在することはよくある。その際に、為政者が不公正な恣意的判断を繰り返し、国民から不信の目で見られるようになると、政策的に正しい内容であっても、結果的に継続することができず、実効性の乏しいものになると思われる。
問5:⑧参考文献
 経済で読み解く日本史 江戸時代 飛鳥新社 上念司著 
 主殿の税 田沼意次の経済改革 講談社文庫 佐藤雅美著
 ゼミナール経済政策入門 日本経済新聞社 岩田規久男・飯田泰之著

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