罪刑法定主義はなぜ近代刑法の基本原則といわれるのか。

  罪刑法定主義とは、どのような行為が犯罪とされ、いかなる刑罰が科されるのか、犯罪と刑罰の具体的な内容が事前の立法によって規定されていなければならないとされる刑法上の原則をいう。

 近代以前の絶対王政の下においては、行為が行われた時点では成文法で禁止されていない行為または判例上も犯罪とは認知されていなかった行為であっても、裁判の結果、犯罪として処罰されること(罪刑専断主義)がありえた。

 しかし、これでは市民は、何が犯罪行為で何が犯罪行為でないのか判断することができず、自由に行動することができない。

 近代の市民革命(とくにフランス革命)において絶対王政が倒され、人の支配から法の支配に社会構造が移行すると、刑罰権の濫用から市民の権利を保障しようとする動きが強くなった。

 すなわち、国家におけるすべての判断や決定は、国家が定めた法律に基づいて行うとする法治国家思想と人間であるということに基づいて普遍的権利が備わっているとする人権主義思想を背景として、国家が市民に刑罰を科しその人権を侵害することが許されるためには、犯罪と刑罰の具体的な内容が事前の立法によって規定されていなければならないとされる罪刑法定主義が確立されることとなったのである。それゆえ、罪刑法定主義は近代刑法の基本原則といわれる。

 その内容は、①刑法の法源として慣習法を認めないこと。②実行時に適法であった行為はさかのぼってのちに処罰されないこと。③類推解釈によってその処罰範囲を広めないこと。④広範囲にわたる絶対的不定期刑は許されないことが含まれる。

 もっとも、法律さえ定めればどんな刑罰を科しても許される(形式的法治主義)のでは、市民の人権を実質的に保護することはできないから、罪刑法定主義の法とは、刑罰法規の明確性の確保と実体的適正続の要請にこたえていくことの両面が含まれると解される。

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