親以外の第三者による子の監護の可否


一 父母以外の第三者は、子に対する監護者指定の申立権を有するか。民法766条は、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める」と規定しているにすぎないため、「父または母」以外の第三者にも766条の規定の適用または類推適用を認め、子に対する監護者指定についての審判の申立てをすることができるかが問題となる。
二(1)この点、大阪高裁決定令和2.1.16は「子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護者指定の申立てをすることができる」と判示した。
(2)これに対して、最高裁令和3.3.29第一小法廷決定は「民法766条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。他方、民法そのほかの法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に子の監護に関する事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、面会交流の申立ておよび監護者指定の申立てについて、監護の事実をもって第三者を父母と同視することはできない」と判示して、「父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分としてこの監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできない」とした。
 なお書きで、最高裁は「子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないものであるが(766条1項後段参照)、このことは、第三者に申立てを許容する根拠となるものではないとダメ押ししている。
(3)確かに、形式的な条文解釈により、第三者が関与する事案について、実務上、調査官が事実を調べ、裁判官が法的判断をするという必要がなくなり、効率的な事件処理をすることができるようになる。また、「第三者に対して監護者指定の申立権を付与すると、潜在的な紛争当事者が増加することで、親権者や子が無用の紛争に巻き込まれ、結果的に子の利益を害することとなりかねない」(法制審議会家族法部会第16回会議資料16-2 39頁)可能性も排除できるだろう。
 しかし、この判決に対しては、「最高裁判所が形式的文理解釈を明示したことで、子の利益の考慮を中心に据えて子の監護紛争の解決に取り組んできた家庭裁判所実務に与える影響は計り知れないほどに大きい」(羽生香織)、また「本件最高裁決定は,法の欠缺を補充し,事案の妥当な解決のために,民法766条の類推適用や準用を肯定してきた家裁実務にも逆行する判断と言わざるを得ない」(棚村正行)などとの批判は根強い。
三 思うに、親権者のほかに子の監護権者を求める法の趣旨は、親権者を定めて離婚したとしても、親権者が常に適任者とは限らないため、実質的な子の保護をはかる点にある。家事審判事項は非訟事件であり,調停前置として当事者の合意解決を促す一方,家裁調査官や技官が当事者の意向や実情を調査,分析し,当事者に対して人間関係調整的な働きかけを行うなど,家裁は当該家事紛争の実態に即した法的解決をすることができるのだから、具体的事案を分析して、「子の利益を最も優先」した解釈をなすことが求められるだろう。より一層「事案解決の具体的妥当性」が必要となると思われる。
 本件紛争の土台となった具体的事案をみると、母が再婚した後の、母方の祖父母と、子と養子縁組した養父と実母との監護権をめぐる争いであり、第三者である祖父母に監護権の申立てが認められなければ、形式的に親権者である養父と実母に監護権が認められる事案である。形式的に見れば父母と一緒に暮らすのが幸せなようにもみえる。しかし、子は長らく祖父母と暮らしており、また子と養父との折り合いも悪く、子は祖父母との暮らしを求めていたようである。そのような事情が存在する中で、このような解決がはたして「子の利益を最も優先した」結果といえるだろうか。形式的な門前払いをしてしまえば、個々の特殊事情を考慮することなく判断を下すことになるだろう。子は父母と同居するのが最も幸せであるという先入観による形式的判断を下してはいないだろうか。父母と祖父母のいずれに監護権を付与すべきかの実質的判断に踏み込む前に、形式的に判断するのは、子の利益を優先した判断とは言えない。最高裁の判断は、実務上の効率性と無用の紛争を避ける法的安定性を求めるあまり、子の利益に配慮した実質的判断と具体的妥当性を避けたきらいがあり、司法に求める国民の要求に十分応えていないように思える。
 もっとも、上記大阪高裁決定が言うように、祖父母等を子の監護者と定めることは、親権者の親権の行使に重大な制約を伴うことになるから慎重な判断が求められよう。その判断に当たっては,子の福祉の観点を最も重視すべきである。したがって、祖父母等を監護者と定めるためには、親権者の親権の行使に重大な制約を伴うことになったとしても、子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、具体的には,親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要すると解すべきである。
四 以上のように、766条の趣旨からすれば、類推適用により、父母以外の第三者に監護権の申立ては認められると解されるが、最高裁が形式的解釈により門前払い判決をするのは、法の缺欠を指摘するものでもあるといえる。そこで、法制審議会においても、「例えば、長年にわたって事実上子を監護してきた第三者が、親権者から当該子の引渡し請求に対抗することができなくなるため、子の監護環境を不安定なものとさせる点で不当であるとの批判があり得る」として、親以外の第三者による子の監護に関する規律の新設を提示した。
 そして、親と親以外の第三者との間の協議が調わないときは家庭裁判所が子の監護をすべき者を定めるものとした上で、親以外の第三者からの濫用的な申立てを簡易に却下する仕組みが必要であるとの考え方を提示している。
 監護権には、監護教育権(民法820条)、居住指定権(民法821条)、懲戒権(民法822条)、職業許可権(民法823条)など多くの権限と義務が認められるから、監護権者は財産管理を除いて子に関するすべての事柄について決定できる余地を持っているので、確かに、父母以外の第三者に監護権を認めることは慎重に考慮すべきである。したがって、明文で第三者の監護権を認めるときは、その要件を明確に、無用の紛争が起きないように配慮すべきである。
 法制審議会の検討の方向性は、具体的事案に即して具体的妥当性を得るため「子の利益に最大限」配慮しつつも、家庭裁判所の実務上の負担の軽減に配慮して、監護権者になりうる第三者の範囲に要件を設けるなど、無用な紛争を避けて法的安定性を図ろうとしており、バランスの取れた改革案であると評価することができる。

 

参考文献
二宮周平「民法766条の解釈」立命館法学2021年5号・6号 
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/21-56/025ninomiya.pdf (最終閲覧日2022年7月16日)
最高裁決定(最決令和3・3・29)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/215/090215_hanrei.pdf 2022年7月12日閲覧
羽生香織「父母以外の第三者による面会交流の申立ておよび監護者指定の申立て」法学教室489号168頁
棚村正行 「判例評釈」判例秘書ジャーナル 2021年7月30日 8頁
法制審議会家族法制部会第16回会議(令和4年6月21日開催)
https://www.moj.go.jp/content/001375398.pdf (最終閲覧日2022年7月16日)
https://www.moj.go.jp/content/001375853.pdf (最終閲覧日2022年7月16日)
法制審議会家族法部会第11回会議議事録 (令和4年1月25日開催)
https://www.moj.go.jp/content/001371744.pdf (最終閲覧日2022年7月16日)
https://www.moj.go.jp/content/001364655.pdf (最終閲覧日2022年7月16日)

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