民法の一部改正による成年年齢の取り下げについて

一 問題の所在

  従来、民法4条は「年齢二十歳をもって、成年とする。」と規定している。この条項を「年齢十八歳をもって、成年とする。」と改正することによって、成年年齢を引き下げ、これまで未成年とされてきた18歳と19歳の者を成年とし制限行為能力者制度(民法5条)の適用除外とした。

  制限行為能力者とは、法律行為を単独で確定的に有効になしうる能力を制限される者のことをいう。

  このような、制度が設けられた趣旨は、意思能力があっても、複雑な取引社会において適切な判断をすることができないために、不利益を被ることがないよう、判断能力が不十分な者についても保護する必要があるためである。(法学講義 民法総則 第3版 p98)

 個々人ごとの判断能力を問題にすると、その証明が難しいなどの問題が生じる。そこで、意思能力の場合と違って、未成年者について一律に取引社会への参加資格を制限しているのである。(ゼミナール民法入門 第3版 道垣内正人)

未成年者は、法定代理人の同意を得なければ、法律行為を取り消すことができる(民法5条1項、2項)ことによって、取引における保護を受けている。

 では、成年年齢を18歳に引き下げることによって、取引上不利益を被ることはないのか?特に18歳の者は、まだ高校生である者も多く、「取引社会への参加資格」をあたえることによって消費者被害拡大を助長することにはならないか、が問題となる。

二 法制審議会での議論

  民法改正を議論した法制審議会でも、成年年齢の引き下げについては、その賛否について活発な議論があったようである。

  反対意見では、「近年の若年者や20代前半の若者は、精神的・社会的自立が遅れている、人間関係をうまく築くことができない等の特徴を持つ者が増えており、まずは彼らの自立を支えていく仕組みを整えることを先行すべきである。それらが整備されず、新しい仕組みを作るだけの財政基盤も期待できない現状において、成年年齢を引き下げることは、自立が困難な若年者が十分に保護されないままさらに困難な状況に陥ってしまう」と主張する。

  これに対し、賛成意見は、「成年年齢を引き下げることは、若年者が将来の国づくりの中心であるという国としての強い決意を示すことにつながる。少子高齢化が進行する日本の将来を支える若年者には、社会・経済において積極的な役割を果たすことが期待され、若年者の社会への参加時期を早めることで、若年者や20代前半の若者に大人としての自覚を促し、社会に大きな活力をもたらすことにつながる」と述べる。

 そして、「現在の日本では、大学生の多くがアルバイトをしていることも含めると、18歳に達した大多数の者は何らかの形で就労し、金銭収入を得ている。契約年齢を18歳に引き下げることは、18歳に達した者が、自ら就労して得た金銭などを法律上も自らの判断で費消することができるようになるという点でメリットがある」と述べ、若年者に親の同意なく一人で契約することを可能にする必要性を説く。

三 私見

1 成年を何歳からとするかは、その時代の社会の判断であると思う。明治の立法当時二十歳を成年とすることは、おそらく遅すぎる印象を国民に与えたであろう。しかし、それから140年たった現在、成年年齢を二十歳とすることは社会に定着してきた。

したがって、十八歳、十九歳の者を判断能力が不十分であるとして制限行為能力者制度で保護することも十分認められるようにも思える。

  しかしながら、社会の要請として十八歳以上に選挙権を与え、社会への参画を喫緊の課題とする現代日本においては、もはや十八歳、十九歳の者を取引社会から除外するのは、バランスを欠くのではないかと思う。

  確かに、成人年齢の引き下げは、選挙権の付与や憲法改正における国民投票権を有する者の拡大など政治的理由から議論のきっかけが始まっており、(内田亜也子 立法と調査 2017.12) 取引社会における十八歳、十九歳の権利拡大は後からとってつけた理由付けのように思えなくもない。

 しかし、よく考えてみると、高校を卒業して大学に入学した時点で、私たちは取引社会に放り込まれ、アルバイト契約だけでなく、下宿の賃貸契約、引っ越しの契約、電話や電気、水道など生活にかかわるすべての契約を相手方と結ばねばならなくなる。その時に保護者である親の同意をいちいち必要とされれば、自らの利益を保護するためとはいえ、確かに煩雑すぎる。

 したがって、取引社会においても十八歳、十九歳の権利を認め、取引社会の参加資格を容認すべきと考える。

2 もっとも、いままで保護されていた十八歳、十九歳の者について、いきなり海千山千の取引相手方がいる社会に放り出すのは、いくら権利を認めたからと言って無謀にすぎる。法制審議会の最終報告(第2次案)13頁に指摘してあるように、20歳になると消費生活センターへの相談件数が急増するのは、悪徳業者が20歳の誕生日を狙って取引を持ち掛けることが多く、未成年者取消権(民法5条第2項)の存在が、悪徳業者に対する抑止力になっている現状に鑑みると、若年層を保護する法律は必要であると考える。

 

 つまり、大前提として、18歳、19歳の取引社会への参加資格を認め、制限行為能力者制度の保護対象からは外すものの、経験不足、情報不足による消費者としての若年者を保護する消費者保護法を拡充することで、若年者をより安全な取引社会に参加させることが、社会全体にとっても有益であると考える。  

                                                                                                                                                           

参考文献

奥田昌道・安永正昭編 法学講義 民法総則 第3版

道垣内 正人著 ゼミナール民法入門 第3版

内田亜也子 「民法年齢引下げの意義と課題」 立法と調査 2017.12  最終アクセス2020.7.6

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2017pdf/20171201064.pdf

民法の成年年齢引下げについての最終報告書(第2次案) 最終アクセス2020.7.6

http://www.moj.go.jp/content/000012523.pdf

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