刑の一部執行猶予制度に期待される刑事政策的機能と今後の課題


一 はじめに
 刑の一部執行猶予制度とは、裁判所が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しをする場合において,その刑の一部の執行を猶予できる制度をいう。

 刑の一部の執行猶予の対象となるのは,前に刑務所に服役したことがないなどのいわゆる「初入者」である。この場合,裁判所の裁量で,その猶予期間中保護観察を付することができる。また,薬物使用等の罪を犯した人については,初入者以外のいわゆる「累犯者」であっても,一部猶予の言渡しをすることができる。この場合,猶予の期間中,必ず保護観察に付される。

 「初入者」,「累犯者」のいずれであっても,裁判所において情状を考慮し,再犯を防ぐために必要かつ相当であると認められるときに,1年以上5年以下の期間,その刑の一部の執行を猶予することができる。

二 形の一部執行猶予制度の刑事政策的機能
 このような、刑の一部執行猶予制度が創設されたのは、施設内処遇と社会内処遇との連携による、再犯防止と改善更生のためと考えられる。従来の刑法の下では、懲役刑又は禁錮刑に処する場合、刑期全部の実刑を科すか、刑期全部の執行を猶予するかの選択肢しかなかった。しかし、まず刑のうち一定期間を執行して施設内処遇を行った上、残りの期間については執行を猶予し、相応の期間、執行猶予の取消しによる心理的強制の下で社会内において更生を促す社会内処遇を実施することが、その者の再犯防止、改善更生のためにより有用であるケースが認められるのではないかという期待の下に制度が創設された。

 もっとも、施設内処遇と社会内処遇とを連携させる制度としては、仮釈放の制度がある。しかし、その社会内処遇の期間は服役した残りの期間に限られ、全体の刑期が短い場合には保護観察に付することのできる期間が限定されることから、社会内処遇の成果を十分に上げることができない場合があるのではないかという指摘がなされている。

 そこで、判決において、その刑の一部の執行を猶予することができることとし、その猶予の期間中、必要に応じて保護観察に付することを可能とすることにより、その者の再犯防止及び改善更生を図ろうとするのである。

三 今後の課題

1 再犯の可能性

 刑の一部の執行を猶予する代わりに、2年~3年程度の比較的長期にわたる保護観察を付けて、社会内処遇の期間を長くして、薬物離脱プログラムを受けさせるなどして、再犯を防ぐことを目的としているものの、実刑部分と執行猶予部分の配分や、保護観察に付される期間の割合等によっては、現在の刑罰が重罰化され、保安処分と異ならないことになりかねないという危険性があり、従来よりも執行猶予の取消しが簡単にできることから、社会内の処遇がうまくいかなければ、再犯の可能性は高くなる。

2 適切な社会内処遇の有無

 一部執行猶予が科される犯罪は大半が薬物犯罪であり、薬物離脱プログラムなどの適切な社会内処遇が保護観察所に設置されているが、窃盗罪すなわちクレプトマニアに対する治療プログラムが必要数確保できているのか課題となる。

3 社会内処遇の実効性の有無

 また、適切な社会内処遇が存在しても、それをうまく活用し実行できる環境が整っているのかという課題も存する。被告人にそのプログラムを受ける意欲がなければ、社会内での更生も難しくなる。一部執行猶予では、長期間の保護観察がつくため、出所後の確実な帰住先があることが大前提となり、家族の協力が必要不可欠となる。

4 以上のように、一部執行猶予制度は社会内処遇を利用することで更生を期待する面があり、保護観察や家族のサポートが重要なカギとなる反面、うまく機能しなければかえって再犯率が高くなる可能性があり、制度適用の犯罪やその運用に相当の配慮が必要と考える。

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