見出し画像

【詩】刀鍛冶の意地


「あの頃は楽しかった」
そう言う大人を嫌ってたのに
「あの頃は楽しかった」
自分がそう言ったことに気が付いた


身体は大きくなったのに 心はすっかり小さくなった
小さな身体の「あの頃」は きっと心は大きかった


大きくなっていくたびに ひとの「醜さ」が目についた
小さな昔を思い描き ひとの「純心」から目をそらした


「みんな違ってみんないい」
そんな戯言 信じない



自分を「正義」と思い込む悪者が
熱した個性を平気で殴りつけて
平らにしたまま去っていく

降りしきる雨がぼくを冷やして
こもった熱は夢の跡


ぽつりと口をついて出た
「あの頃は楽しかった」
そう言う大人を嫌ってたのに
「あの頃は楽しかった」
自分がそう言ったことに気が付いた



だけど それでも



ひとの醜さを知った分
ひとの優しさに気が付いた


雨が上がって 青空が広がって


あなたが手を差し伸べる
平らに汚れたぼくの頬
真っ白なハンカチで拭いてくれる


差し伸べられた手を取って
立ち上がって見上げた太陽が
ぼくをまた温めた


周囲の「視線」は自由気まま
好き勝手に「価値」を決めつける

何度も平らにされて
何度も冷たさに震えるけど

そのたびに鋭く
そのたびに熱を帯びていく


ぼくは一人の刀鍛冶
「あの頃」なんてもう言わない

『個性』と銘打った刀を作るため
小さな鉄を 大きな刃に投げつけて

今日も刀を打ち続ける



【次】才能の花

【前】使い方

【その他の作品】→こちら へ どうぞ


///////////////

見出し画像には、『Ted Ozawa』様の写真をお借りしました!

ありがとうございます!