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森見登美彦『夜行』

 タイトルの通り、森見登美彦先生の『夜行』についての感想とそれに付随して少し。

あらすじ

 私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。(Google Booksから引用)

感想

 (以下ネタバレも含む)

 森見登美彦先生の作品が好きで、今回たまたま手に取って読んでみようと思い立って『夜行』を読んでみた。これまで、『四畳半神話大系』に始まり、『夜は短し歩けよ乙女』『恋文の技術』『新釈 走れメロス 他四篇』と読んできて、「おもしろい」小説を書く人だと思っていた。10月に新刊が発売されると聞き、内容も知らずに購入してしまった次第だ。しかし『夜行』はさきのあらすじからも分かるように怪異譚だった。それを知らずに読もうとしている自分が情けないのだが…。後に森見先生のインタビューを読むと、明るいものと暗いものを交互にかき分けているようだ。それは知らなかった。私が読んでいたのは、森見登美彦の「明るい方」の作品ばかりだった。そんな意味で今回はとても新しい感覚だった。

 読み進めながらずっと思っていた。これは本当にかの森見先生の作品か。それほどに文体が違う印象を受けた。これまで読んだ作品は、登場人物たちが勝手に飛び出していくのを追いかけていくような感覚だった。とても勢いがあり、笑いどころが多かった。それに対して、『夜行』はずっしりと重たくて読んでいて飛び出してくるどころか動かないくらいの重さを感じた。本当に宿でそれぞれの怪談を聞いているかのような感覚だった。なんというかこう、得体のしれない寒気が襲ってくるような。

 ここからは小説を通して思ったことですが、それぞれの章に出てくる<夜行>の絵画と隣に立っている女性の謎が全然解けない。解けないなりにですが、あの女性は誰でもないんですよね、きっと。自分の中の怖さ、寒さ、心残り、などの後ろめたい感情の総和としての産物なのかなと思いました。自分の中の負の総和が絵画の女性として「あっち側」へと手招きしていると考えるとそれはそれでまた怖い。最後に何かの拍子に、大橋君は<夜行>のある世界から<曙光>のある世界へと飛んでしまい、そこでは自分が10年間行方不明だった、長谷川さんではなかったという話の流れも考えさせられます。大橋君もきっと何かの手招きで「あっち側」に行ってしまいましたが、誰が大橋君を「あっち側」に呼び込んだのでしょうか。

 (散文の程からも分かっていただけると思いますが、)正直なところ、疑問点だらけです。一度読むだけでは腑に落ちなかったので、もう一度読もうかと思っています。『夜行』に関する特設サイトも見つけたので、それも参考にしながら読み進めたいと思います。


  もう一度読むことになれば、ちゃんとした感想をあげなおします。

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