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旅のトモ

旅というものにそれほど縁のない人生を歩んできた。ような気がする。

海外に出たこともなく、パスポートさえ持っていない。
飛行機にも45年の人生で3回しか乗っていないし、その全てが羽田←→福岡だ。

そんな私が読んでも、「スローシャッター」は旅への憧憬を抱かせる。

私は「そうでない方」

私が海外に旅に出るとしたら、スーツケースに何を詰め込むのだろう。

そんな想いを抱かせたのが、最初の一編である「アプーは小屋から世界へ旅をする」だ。

田所さんが遠いアラスカの地に向かう重いスーツケースの中に分厚い世界地図を詰め込んだのは、「何かの役に立つだろう」と思った「お気に入り」だったからと記されているが、そういう何気ないものほど大切なアイテムになるものだ。

田所さんとアプーを深く結びつけたのがその分厚い世界地図であったことは、ある種偶然だし、ある種必然でもあるのかもしれない。

スマホやタブレットで影が薄くなりがちなアナログのデバイスだが、こういった必然はアナログの方が分がありそうである。

田所さんにとって何気ない旅の共だった世界地図が、アプーにとっての旅そのものになり、その旅の友は間違いなく田所さんであった。

そして、アプーの旅は世界地図から世界へと飛び出し、田所さんのように世界を仕事で飛び回る大人を産んだ。

人の一生を左右するようなプレゼントへの憧れをも想起させられる。

私の何気ない持ち物の中に、そんな力のあるものはあるだろうか。

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