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【劇場版シティーハンター】天使の涙に涙する

俺の名は、新宿観光アンバサダー・冴羽獠

劇場版シティーハンター

9月に公開された、愛して止まないシティーハンターの映画、「劇場版シティーハンター 天使の涙エンジェル・ダスト

すっかり興味をもった次男、三男と三人で1度、その前後に一人で2度の合わせて3度鑑賞した。

入手したノベルティと購入したパンフレット

そろそろネタバレ感想をあげてもいい頃かなぁと思っているうちにほぼ上映終焉となっている。

ここで満を持して?ネタバレ込みで感想を書こうと思う。

さてまとまるかどうか。


原作とアニメ

シティーハンターはアニメ化されシリーズ化し、長編スペシャルアニメ化も映画化もした。

原作を読み込んだ私だが、アニメの全てを観たわけではない。
しかし、アニメのオリジナルストーリーも多く、その中には原作にも負けない名作も数多あるのはわかっている。

それでも、トータルでは原作が素晴らしいという見解は個人的には譲れない。

2019年公開の「劇場版シティーハンター・新宿PRIVATE EYE」は、シティーハンター復活の興奮を味わうには十分だったものの、ギャグシーンのてんこ盛り感もあって、原作に比べると若干のお祭り騒ぎ感も否めなかった(でも好き)。

だから、単に新たな劇場版が出るというだけなら、またお祭り騒ぎに巻き込まれるぜ(だが、それもいい)という感覚になっただろう。

しかし、新たな劇場版のPVが流れた時、その期待は否応無しに膨らんだ。

サブタイトルの「天使の涙エンジェル・ダスト」と、海原神という登場人物のせいである。

「エンジェル・ダスト」と言えば、原作において、冴羽獠の日本での最初の相棒・槇村秀幸の命を奪い、かつては獠自身を苦しめた、人を不死身の兵器に変える悪魔の薬。
巨大犯罪組織・ユニオン・テオーペが世界を手中に収めるために濫用したが、日本進出の野望は獠の前に一時撤退を余儀なくされた。

アニメでは、ユニオン・テオーペではなく、麻薬密売組織・赤いペガサスの勢力拡大を阻止したというストーリーに変えられていた。エンジェル・ダストについては全く出てこない(獠が槇村を窮地を救った「エンジェル」と表現しているが、かなり強引な表現に感じた)。

海原神は、飛行機事故の生き残りとなった孤児に冴羽獠と名付け、戦地を生き抜くために傭兵のスキルを叩き込み育てた、いわば獠の育ての親。にもかかわらず、獠を実験台として戦地に送り込んだ男。そして、悪の組織・ユニオン・テオーペの長老メイヨールとして頂点に立つ男。

海原神が原作の最終盤で登場する頃にはアニメシリーズが終了しており、これまでの劇場版や長編アニメにも登場していない。

今回の劇場版は、原作では超重要要素でありながら、これまでアニメでは扱われてこなかった「エンジェル・ダスト」「ユニオン・テオーペ」「海原神」が軸になる。それがどう描かれているのかが興味の一つだった。

ユニオン・テオーペについては、“日本での”最大の麻薬密売組織・赤いペガサスの“国際的”上部組織として物語に上がってくる。
比較的自然に原作とアニメを繋いだ印象。悪くない。

一方、エンジェル・ダストは何の説明も釈明もなく槇村の命を奪ったものとして扱われる。描写が完全に原作寄りである。
獠の腕の中で息絶える槇村の描写も、より原作に合わせた描写となっている。
そうしないと本作品のストーリーに入っていけないから仕方なかったのだろう。
原作ノータッチのアニメファンはどう思ったのだろう?原作ファンの私としては何の違和感もないのだが。

海原神についての描写については以後のストーリー展開の中で触れたい。
ただ、ノベルティのスタッフトリビュートブックレットで原作者・北条司先生は「こだま監督が、劇場版の前作「新宿PRIVATE EYE」の最初のプロットを「海原が死んだところから始まる」としていて、さすがに無理があるからと止めた、と語っている。そりゃそうだ。

獠を狙う者が背負うもの

原作では、獠のアメリカ時代のパートナーだったミックが、獠を消す依頼を受けて登場する。

ミックはターゲットに恋人がいる時にはその恋人を自分のモノにしてから仕事に入るというポリシーがある。
獠を狙うにあたっては、当然というかなんというか、香をモノにしようということになる。

それがシティーハンターらしいドタバタの展開に繋がっていき、そもそもミックが獠を狙うという最初の設定すら忘れさせるのだが、ミックの香への想い、香の獠への想い、そして獠の香への想いが絡み合った末に獠の始末を諦めたミックは、日本から去るにあたって“依頼者”について言い残していくのだった。

リョウ…
おれの依頼主は
おまえの
おやじ…だ‼︎

単行本33巻

この台詞が、いわゆる「海原神編」への入口になるわけだが、原作を読み通してなんとなく引っかかる流れでもあった。

ミックは依頼を受けて獠を狙いながらも、盟友として、香の存在もあって、依頼を果たすことを次第に重要視しなくなった。
しかし、ユニオン・テオーペの圧力をそんな簡単に脇に置けるものだろうか。
ユニオン・テオーペも、裏切れば大きな支障になりかねないミックにわざわざ獠を狙わせるだろうか。

獠の(元)盟友でありながら獠の命を狙うと言えば、ブラッディー・マリーとソニアだが、それぞれに命を狙うだけの理由があって、その後の和解も含めて納得感があったが、ミックについてはややその納得感が弱いように思えてしまう。
(もちろん、描かれていない背景に思いを馳せる余地はあるのだが)
(あと、決してこの流れが嫌いというわけではない)

一方の劇場版。

獠を狙う存在として登場するのは、アンジーことアローニモである。

ユニオン・テオーペにおいて要人暗殺を任務とするウェットワークスと呼ばれる3人組チームの一人。

戦地で家族を殺され孤児になったところを海原に拾われてユニオン・テオーペの戦士として育てられた。
その経歴は、戦地に墜落した飛行機の唯一の生き残りとして海原の傭兵軍に拾われ、傭兵として育てられた獠とぴったり重なる。

しかし、獠が人心の残る海原の(一定の)愛を受けて育てられたのと異なり、アローニモはすでに殺戮者となった海原に機械的に育てられた。少なくともアローニモの目にはそうとしか映らず、海原からの愛の渇望が極まった先に、獠を超えるという目標が生じたのだ。

私怨とも言えるアローニモの執念。
獠を本気で狙い、かつその先に和解が見つからない設定には個人的にかなり納得できる。

アローニモは同時に、エンジェル・ダストの悪魔に囚われた海原の目を醒させたいという想いも抱える。エンジェル・ダストによって喪われた海原の人心を取り戻し、人として自分に愛を向けてほしい。
海原はその想いをわかって、なおそれを利用して獠を仕留めさせようとしたのだろう。
獠が日本にいてはユニオン・テオーペの日本での活動に支障が出る。差し違えてでも獠を消したい。その任務を果たすのに、アローニモはうってつけだったのだ。

しかも、海原はアローニモに冴羽獠抹殺を直接指示していない。あくまでアローニモの自発的な、かつ組織としての指示には反する行動だ。
それゆえ、海原はウェットワークスのメンバーで、アローニモと繋がりの深いピラルクーとエスパーダに彼女の抹殺を命じている。
おそらく、アローニモがエンジェル・ダストを忌み嫌っていることも承知の上でだろう。
海原はアローニモが二人の追撃をかわして獠と対峙し、あわよくば獠を消すことができると期待した。あと一歩まで迫りながらそれが叶わないとわかった途端に、アローニモにエンジェル・ダストの最終進化形・ADAMアダムを打ち込むのであった…

アローニモとキャッツ・アイ

本作の物語は、キャッツ・アイがとある絵画を狙うシーンから始まる。
そこにレオタード姿の獠と海坊主が登場するのは(嫌いじゃないけど)余計だったかも。
ともあれ、キャッツ・アイは見事に狙い通りに盗みを成し遂げた…と思ったところで、獠と同じコルトパイソン.357マグナムを扱う刺客に横取りされてしまう。しかも、横取りしたのは絵画そのものではなく、絵画に隠されていた何かだった。

あっさりネタバレすると、この刺客がアローニモであり、絵画に隠されていたのはエンジェル・ダストの最終進化形=ADAMだった。
赤いペガサスは、絵画の取引にカモフラージュして、出来上がったADAMをユニオン・テオーペに上納しようとしていたのだった。

ネタバレの部分については映画の中で答え合わせされているのだが、それだと答え合わせが足りない。
見て取れる情報から足りない部分を推測してみた個人的な解答は以下の通り。


エンジェル・ダストを忌み嫌うアローニモは、組織が日本でADAMを入手することを知り、組織の意に反してADAMを強奪し、さらに日本にいる宿敵・冴羽獠を殺すことで、エンジェル・ダスト無くしても自分が海原神最高の“子”であることを証明しようと思い立つ。
しかし、絵画を盗み出すスキルがないアローニモは、(A)その部分をキャッツ・アイに依頼、もしくは盗まざるを得ない状況を生み出すことで肩代わりさせ、強奪する or (B)キャッツ・アイがADAMを隠した絵画を盗み出すという情報を入手して、キャッツ・アイから強奪することにした。


AにしてもBにしても、我ながら引っかかる。

Aの引っかかり
キャッツ・アイは依頼を受けて盗みをする怪盗ではない。そもそも。
三姉妹の父であり、信頼する仲間に裏切られた画家ミケール・ハインツの散逸した作品を取り戻すことがキャッツ・アイの目標である。
頼まれて盗むとは考えづらい。

Bの引っかかり
Aで述べたように、キャッツ・アイが狙うのはミケール・ハインツの作品である。
劇中で三女の愛が陳腐と酷評するような作品を盗む理由があるとは思えない。
はじめからADAMを狙って盗んだとしても、キャッツ・アイがADAMを狙う理由はない。
獠と海坊主は盗まれたケースがADAMであることを後から知ったはずなので、こちらが依頼主ということもあり得ない(し、キャッツ・アイは依頼で盗まない)。

考えられるとしたら、ミケール・ハインツの絵画収集を完徹したキャッツ・アイが別の何か使命を与えられて動いているという可能性だ。
ラストの「ユニオン・テオーペ… 調べてみる必要がありそうね」というるいの台詞にも繋がりそうだ。
だとしたら説明がなさすぎる。続編への宿題なのか… だとすれば期待したいが。

アローニモのXYZ依頼

ADAMを入手したアローニモは、冴羽獠との対決を前に、獠の力量や特性をつかみ、対決の機会を窺うため、依頼人として獠に近づく。
破格の報酬は、依頼の本気度を示して断られないようにするためだろう。
ただ、「猫探し」という依頼はやはり納得しかねる。「うちのタマ知りませんか?」とのコラボは先か後か?新宿の3Dビジョンに発想を得たとしても、もっと他にいろいろあるだろうと。
猫にまつわると言えば、キャッツ・アイとの関わり。ただ、ADAMを入手したアローニモにとっては、キャッツ・アイとはむしろ関わりをもちたくないのでは。
海坊主の猫嫌いは本筋とは関係ないだろう。

ただ、内容は置いといて、依頼人として獠&香と関わりをもったことで、殺人者・アローニモが一人の女性・アンジーとして束の間の“普通の”時間を過ごせたことは、映画を鑑賞する我々にとっても、アローニモ本人にとっても幸福だったのではないだろうか。

アローニモは、獠と対決する前に獠を知る時間を作ったことで、アローニモの中にある“一女性”の姿を、ほんのひと時表に出すことができたのだろう。それでもなお、獠との対決をぶらさずにもち続けるのも、アローニモの芯の強さであり、殺戮の世界から逃れられない宿命でもあるのだ。

それにしても、ストーリーの端々に埋め込まれるアローニモが当たり前のコミュニケーションが取れず、当たり前のことを知らないエピソードの描き方は秀逸だなぁと思わずにはいられない。

アローニモvs獠、そして…

アローニモは、元は仲間として組んでいたエスパーダ、ピラルクーとの対決をくぐり抜けて獠との対決を迎える。

お台場から対決の場までの流れはしっくりこないところもある。
二人がアローニモから託されたADAMを狙って獠と香を襲撃するのを知っていて取った行動としては軽率に写る。あえて盗ませたとも考え難い。
ルパンと次元の出演は謎のままだ。ルパンは香の何をなぜ知っているのだ?

いろいろ引っかかるポイントが放置されたまま、獠vsアローニモの対決は幕を開ける。
こんなこと言うと元も子もないが、ここまで引っかかったり、納得いかなったりした諸々が全て吹っ飛んだ感がある。

死闘とも言える決闘の末、獠の銃弾がアローニモの右腕の自由を奪ったところで勝負あり…
アローニモの命まで奪おうと思わない獠と、獠に負けたからには殺してくれと思うアローニモの心のせめぎ合いになる。そう思った矢先、海上のクルーズ船から戦況を見つめていた海原が、ライフルでアローニモにADAMを撃ち込む。
エンジェル・ダストの威力を証明するために獠を利用した海原は、今ADAMの脅威で獠を始末するためにアローニモを利用したのだ。そこに、心は、あるんか?
ADAMを撃ち込まれ、不死身の殺戮者となったアローニモは、それでもギリギリの自我をもち続けた。
獠を仕留めることに全力をかけるADAMの力と、これは望む形ではない、私でなければ意味がないと逡巡する自我とが、肉体としてはすでに限界を超えたアローニモの中で交錯する。

死しか終わりはないと悟るアローニモ、しかしADAMは自死を許さない。
苦しむアローニモを救えるのは獠だけ。香の悲痛の叫びに、獠も覚悟を決める。
敢えて落下しながらの渾身のワンホール・ショット…

このシーン、アローニモを演じる沢城みゆきがすごかった。失われつつある自我を懸命に引き留めながらADAMに逆らう苦しむ姿にビッタシハマっていた。すごい。

私はここで泣いた。沢城みゆきに泣かされた。
このシーンだけで、この映画を観てよかったと思った。

この作品は「最終章の始まり」と銘打っている。
間違いなく 獠vs海原 へと繋がっていく。
しかし、ミックが絡まない以上、原作とは全く異なる導入になるはずだ。
楽しみである。

さて、最後のシーン。
GET WILDが終わって、獠と香の会話。
あれは納得いかないなぁ。

私なりにアレンジしてみた。
少しでも違和感のないように。



「あの時、なんて言おうとしてたの?」


「俺は死なない(シリアスっぽく)…なーんちゃって(おちゃらけて)」


「(少し顔を赤らめて照れかけるが持ち直して)なぁに言ってんだか!」


お粗末!

最後に大きくざっくりまとまると、細かいシーンに引っかかるところはあるものの、トータルとってもよかった!
続編に期待!

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