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運命のドア

『運命』が本当にあるかどうかは、わからないけど、
ときどき感じることがある。

生きていると、ありえないタイミングで、ありえない出来事が起こったりするからだ。

そして色んなものが違和感なくスムーズに進んだりする。

そういうとき、「ああ、こっちの方向で合ってるのね」と感じる。

逆に何かがひっかかったり、うまくいかないときは、「こっちは違うよ」と言われている気がする。

だから躊躇なくスッと身を引くようにしている。

そんな小話をひとつ。

2年前のある日。
わたしは引っ越しを計画していて、
ほんのり貯まった貯金をもとに、とある不動産屋に行った。

予算はこれぐらいで、このあたりで....
と相談すると、
不動産屋のお姉さんは、
いくつか候補をピックアップしてくれて、さっそく部屋の内覧に行くことになった。

不動産屋の車の後部座席に乗り込み、
運転席のお姉さんと当たり障りのない世間話をしながら、
目的の物件をめざし、とある駅前の商店街を抜けることになった。

人通りが多い週末の商店街だったので、
自転車よりも遅いスピードでゆっくりと慎重に車を走らせていて、誰がどう見ても安全運転だった。

のに、


『ドンっ』


車のサイドミラーに、通行人のおじさんがぶつかった。

ぶつかった、というより、
ぶつかってきた。

だって車はゆっくり走らせていて、
道にはよけられるスペースもあった。

数秒後、おじさんが引き返してきて、
車の窓をコンコンと叩いてきた。

お姉さんが窓を開けると、

「今さ、腕ぶつかったんだよね。痛いんだけど、時間ないから、とりあえず1万円くれない?」

「ごめんなさい!とりあえず警察に連絡しますね」
とお姉さんは答えたけど、

「いやいや、時間がないから、とりあえず1万円くれたらいいから」

とおじさん。

あまりにも慣れた流れと口調から

『これは..."当たり屋"というやつじゃ...』

という事を、お姉さんも私も察した。

隙を見て、こっそり警察を呼んだ不動産屋のお姉さん。

私は後部座席に残り、
車外で警察、お姉さん、おじさんによる話し合いが始まった。

結局のところ、
車にドライブレコーダーがついてる話をしたら、さっきまで腕を抑えていたおじさんが
「あれ?なんか腕が大丈夫になってきたなぁ〜」とケロっとしはじめたらしい。
(ドライブレコーダーの映像見たら自分からぶつかってきたのバレちゃうからね)

そうこうしていると、
不動産屋から代わりの男性スタッフが代車でやってきた。

そうそう、私は物件を見にきたんだ。

車を乗り換え、目的の物件についた頃には、日が暮れ始めていた。

そしてアパートの部屋のドアの鍵を開けようとしたところ、
今度は2つ必要な鍵を1本しか持っていない、ということが判明した。

男性スタッフが急いで管理会社に電話をして、2本目の鍵を持ってきてもらうことになったけど、どんどん日が暮れて、
あたりが真っ暗になった頃、やっとアパートの部屋のドアを開けることができた。

電気が停めてあるので、スマホのライトで部屋の中を照らしてみたけど、
しっくりこなかった。

それに、それまでのハプニングの連続で
「あー、私はこの部屋に呼ばれてないんだな」
と感じて心が折れていた。

「なんだか今日は大変なことに巻き込んでしまってすみません」
と不動産屋さんは謝っていたけど、
私はその物件も、当たり屋が住んでいるかもしれない街に住むことも諦めた。

「こんなにうまくいかないことが重なったなら、今は引っ越しのタイミングじゃないのかもな」
と思った。

その1週間後、
わたしはひょんなことをきっかけに、ドイツ人の友達ができて、海外に行くことを提案された。

ずっと行ってみたかったけど、お金も勇気もタイミングもなくて、
30年間なかなか行く機会が無かった海外旅行。

お金も無く...

....あれ?わたし貯金あるじゃん...


引っ越し費用として貯めてたけど、行くなら今なんじゃない?
向こうに友達もいるなら心強いし...

と閃いて、その1ヶ月半後、
トントン拍子でことが進み、
人生で初めての海外旅行で1人でドイツに行った。


それから、世界が広がった。

1人で海外旅行に行けたという達成感もあったし、日本とまったく違うヨーロッパの文化や自然が、すごく刺激的でカルチャーショックだったのも良かった。
ずっと見たかったバンドのライブもドイツで観に行けた。

友達に誘われるがまま、
ドイツの山に登って、
気付いたら
美しい大自然を目の前にしていた。

昔は摂食障害で悩んで
ひきこもっていた自分にも
こんなことができる可能性があるんだ、
というのを知って感動した。

英語にも興味を持って、勉強して前よりは少し分かるようになった。
考え方も変わって、
出会う人の幅も世界に広がっていった。

物質ではない、心の豊かさを凄く実感するようになった。

引っ越しは延期になったけど、
もしあのとき、
当たり屋のおじさんが現れず、
ドアがスムーズに開いて、
引っ越ししていたら、
私は世界の広さや自分の可能性を知ることが出来なかったと思う。


そんな、不思議な経験があったので、

うーん、やっぱり運命は、あると思います。

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