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エッセイ

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2021年9月の記事一覧

つるかめ助産院と私の出産

「つるかめ助産院」を読んで、何十年も前の自分のお産のことを思い出しました。 私は4度、出産しているのですが、すべて自宅出産でした。それでこの本の中で表現される、お産というものが 日常の中にするっと入り込んでいる風景が とても懐かしく思い出されたのです。 私の友人は陣痛の合間あいまに大好きな餃子を作っていたと言います。私の場合は翌日のパンを、陣痛の波にあわせてこねていました。本の中では、子供たちがお母さんのお産を見守るシーンが出てきます。 「ナナコさん、赤ちゃんの頭、出て

ありがとう、しか浮かばない

日曜日の午後、私はお店のマネージャーと一緒に教会に来た。 先週の始めに スタッフがコロナにかかってあっという間になくなってしまった。 教会でのお葬式は、すべて彼女のオリジンであるスペイン語で、私には牧師さんが時々口にする彼女の名前と、「アーメン」の言葉しか理解できなかった。 棺の向こうのスクリーンには 生前の彼女の写真が映し出され、それは彼女が赤ちゃんだった頃から、つい最近、彼女の一人息子の6歳の誕生日を祝ったものまでが流れた。 私と同い年の 彼女の母親がすすり泣くの

家出をした息子への祈り

土曜日の朝、夜勤あけの息子に朝ごはん(晩ごはん?)を作る。 簡単なものだけど、カラフルな食材を使って、フルーツや生野菜も添えて。 メンタル疾患をもっている彼は、薬の副作用からか、甘いものを好み、自分で買ってきたスナックにちょくちょく手を出す。だから出来るときには、なるべくバランスの取れた食事を用意するようにしている。 私はソファにもたれて、一人静かに食べている息子を眺めながら、夫が入れてくれたオーツミルクの入ったコーヒーを味わっている。朝の柔らかな外からの風と、光。家の