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サカナクションの生配信ライブが素晴らしかった話

8月16日に行われたサカナクションの生配信ライブを観た。

サカナクションが気になりはじめたのはこの1、2年のこと。楽曲も耳に残るし、フロントマンの山口氏がラジオやテレビに出演している様子に毎回とても好感を抱きながら「この人の、この“なんかすごくいい感じ”はいったいなんだろうか」という興味が募っていたところに、先日の投稿でも書いた番組があったのだった。

番組内でも、山口氏は予定していたツアーがすべて中止になってしまった状況を語り、「だったら無観客でやればいいかというと、そう簡単な話じゃない。お客さんを前に、客席からパワーをもらいながらやっているライブのパフォーマンスを空っぽの客席を前にやってもどうしても演技になってしまうから」といったことを、深刻な表情で話していたと記憶している(表現の詳細はおぼろげです)。
同じような話を、夫が気になって録画していた藤原ヒロシ氏との対談番組でもしていた。その番組では、まだ構想段階の話として、藤原氏に「早ければ8月に、遅くとも年内には、オンラインミュージックビデオみたいな生配信ライブをやりたいと考えている」と伝えていたのが、結局「早ければ」の方のスケジュールで実現させてしまったことになる。すごい。なんて有言実行の人なんだろう。また信頼度が上がった。

考え抜いた末の答えの鮮やかさ

ライブは、結論から言って「生配信でここまで隙もゆるみもないパフォーマンスができるのか」と唸りっぱなしの、とことん緻密な、素晴らしいものだった。

彼らのライブを観るのは初めてだったけれど、音楽は思っていた以上に多彩でカッコよかったし(個人的には前半のミドルテンポに好きな曲がいくつもあった)、演奏テクニックの高さにもびっくりした。5人のスタイリングも映像演出もおしゃれで洗練されていて、視覚的な楽しさがたっぷりと盛り込まれていた。
これはきっと大画面になるほど美しいだろうなぁと思って、鑑賞後、今後はこうしたライブのかたちもスタンダードの一つになることを見越して、わが家の音響や映像設備の向上化をはかろうかと夫と真剣に話し合ったくらい。

わたしも夫も10代のころからライブはたくさん体験してきたし、「会場で生がいちばん」なのは、アーティスト側もオーディエンス側も同じ気持ちだ。けれど、それがまた叶う「いつか」をぼんやりと待っていても仕方ない。「今この状況だからこそのオンラインライブを考えたい」と熱く語っていた山口氏の、冷静に考え抜いた末に示した一つの答えの鮮やかさにとても感動したし、終了後は自然に拍手をしていた。
ちなみにアーカイブ配信は23日夜まで観られるそうなので、今からでも、ぜひ!

知的な戦略で時代を切り拓く姿

「サカナクションがどうやらすごいオンラインライブをやるらしい」という話は、少し前からネットやラジオでも流れてきて知っていたのだけれど、実はわたしが「チケット買おう」と決めたのは、本番の2日前。娘を塾に送り出してホッとしながらつけたテレビに、たまたまサカナクションのライブ開催までのドキュメントが映し出されていて(番組は日テレ『スッキリ』だった)、ライブ会場でリハーサル中だという山口氏も中継で登場した。

山口氏って見るからにおしゃれでストイックそうだし、その音楽表現にも強いこだわりと理想が見えて、一見ちょっと近寄りがたそうな印象。でもしゃべると気さくな兄ちゃん、って感じがまたとても魅力的だなと思う。
彼が最後に「あんまりお金の話をすると(北海道)小樽の田舎者だってバレるし、ツイッターでもまた叩かれちゃうんですけど(笑)、今回はもともと3000万円くらいでやろうとしていたプロジェクトだったのに、すでに経費が1億円超えちゃってて、もうみなさんにチケット買っていただかないと、バンドが解散じゃなくて破産しちゃうんで!」と、感心するほど嫌味なく、まっすぐにテレビの向こうの視聴者にお願いしていて、わたしは「わかった、買うよ!」と心を決めたのだった。
とはいえ、娘と受験勉強に明け暮れる今の生活スケジュールではリアルタイムで見られないだろうことは事前にわかっていて、でも夫は自室で観られるだろうし、翌日以降にアーカイブ配信でもいいから観たいと思った。実際にそうしてみると、アーカイブでも十分感動しながらも、これはつくづく生で観たかったなぁと悔しかったのだけれど。

お金の内部事情を話しながらライブの宣伝をする彼が、ツイッターでどんな批判を浴びたのかは知らない。
でも、リアルタイムでは見られないことを承知で4000円のチケットを買おうとわたしが決めたのは、徹夜続きのむくんだ顔でテレビに出て必死にライブの宣伝をする彼の姿に心を動かされたから、というのは事実だ。
いやその以前に、彼があちこちのメディアで語っている言葉に、一人のアーティストとして、この逆境を知恵と情熱でなんとか切り拓き、業界を越えて横とつながりながら生き抜こうとするスマートなたくましさを感じていたからだ。

たとえ宣伝の仕方がある種の人間くさいかたちのものだったとしても、ライブはとことんスタイリッシュで、バンドの実力と山口氏のカリスマ性をこれでもかと見せつけるものだった。そしてヒット曲以外にサカナクションの音楽をちゃんと聴いたことがなかったわたしも夫も、しっかり魅了された。今回のライブは、きっとわたしたちのような新しいファンをたくさん獲得したことだろう。結果的に約5万人が視聴し、黒字を出すことができたらしいと聞いた。

山口氏の情熱と知的な戦略は、やっぱり鮮やかで清々しい。これからもますます応援したいと思う。

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