見出し画像

作品の届け方が生む結果について

最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』は、発売2か月で重版が決まった。

前作『ただいま見直し中』、その前の『直しながら住む家』に続いての重版である。本当にうれしいし、ホッとしている。

この本を予約までして買って読んでくださった方や、SNSを使って周囲に勧めてくださっている方、家族や友人にも贈ってくださる方……感謝してもし尽くせません。ほんとうにありがとうございます。

わたしが目標にしている発売前重版や、発売直後からどんどん版を重ねるような売れ方にはまだ及ばないものの、それでも数年前よりは、自分の本が売れるようになってきた、という手応えを得られつつある。

わたしが文筆家として著作=キャリアを重ねながら、以前より多くの方に興味や共感を持ってもらえる本が書けるようになってきたことも、要因の一つなのかもしれない。
でもきっと、それが一番ではないだろう。
一番の違いは、おそらく「届け方」の変化によるものではないかと思っている。

41歳で『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)を出版して以来、ほぼ毎年、著作を刊行しながらも、わたしがぶちあたっていたのは「よい本であるはずなのになぜ売れないのか」という壁だった(ちなみに『家がおしえてくれること』は重版している)。

本が発売されたら書店を何軒もパトロールして、担当編集者さんを通じて営業の方に、もっと効果的な売り場に置いていただけるようプッシュしてほしいと頼んだり、書店さんでのトークイベントにも意欲的に取り組んでいたつもりだ。

そうした行動が無駄だったとは思わないし、読者の方と直接お会いできる貴重な経験にもなったと感謝している。
でも、販促効果としては十分ではなかった、と認めざるを得ない。
そのイベント当日や短期的には売り上げが増えても、長期的な効果とまではいかなかった。
それは、タイトルとしてキャッチーなわけでもない、本のたたずまいと雰囲気はいいものの、購買欲を強烈にそそるフックがあるわけでもない、まるでわたしという人間をそのまま本の形にしたような、派手さのない著作たちが、百花繚乱の書店の売り場では競争に勝てなかったことを意味する。
売り場担当さんのよほど強力なプッシュを得られないかぎり、埋もれてしまう本だった。

何冊つくっても、最終的にはそうなるのは、自分自身が読者の側にまわるときも、結局はそういう本が好きだからなのだろう。
書店で目を引くかどうかより、誰かの本棚に気持ちよくおさまってくれるかどうかを重視してしまう。だから当然の結果ではあるのだ。

ところが、1年前からVoicyを始め、インスタグラム
の発信にもより力を入れたことで、自分らしさを損なわない範囲で、販促力が上がってきたような気がする。

よい作品をつくっても、それを届ける努力をしなくては届かないし、存在を知ってもらうことすらできない。
そして宣伝の努力を自分事としてとらえられるのは、やはり作品をつくった本人なのだ。
ひと昔前までは、作り手と売り手の役割分担がもっとはっきりしていて、作家はよいものをつくりさえすれば、あとは売るプロにバトンを渡すことができただろう。

でも、個が能力を発揮する時代といわれる今、その能力のなかには、宣伝力というものがたしかに含まれている気がする。
作品の質がよいものであることはもはや大前提で、そこから売れるか売れないかの差は、作家本人の届ける力の差であることが、やっとわかってきた。

本が当たって印税で一生暮らしていけるなんて、わたしにとっては神話でしかない。
けれど、どのみち一生仕事をしていきたいと思っているのだから、つくって届けて、ということを、これから先も地道にくり返していくことになるのだろう。

でもそれは、作品をわが子のように愛せるかぎり、誇りをもてるかぎり、とてもしあわせで、楽しいことでもある。

そして、こちらも地道におしらせしていかないと。
デジタルリトルプレス『a.m.notes 第1巻』、好評発売中です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?