令和6年度日大ロー入試第1期についての雑感

全体的な総評

民法・刑法については、基本的な事項からの出題だったと思います。

ただ、憲法については、ここ5年で、3期以外で初めて統治分野の法律上の争訟についての出題ということで、面を食らった受験生が多かったのかなと思います。また、法律上の争訟について、十分な準備をしてこなかった受験生もそれなりにいると思われます。

以上を考えると、民法・刑法でしっかりと点数を取り、憲法は最低限のことさえ書ければ、合格可能性があるといえるでしょう。

憲法について

憲法の素材となっている裁判例は、札幌高裁令和5年3月14日判決であり、かなり新しい裁判例です。

ただ、出題者の意図としては、この裁判例を知っていることを求めているわけではなく、法律上の争訟に関する、過去の重要判例から考えることを求めていたと思います。

特に、地方議会の内部紛争と司法権が問題となった最大判令和2年11月25日は重要判例ですので、押さえておくべき判例といえるでしょう。

それ以外にも、法律上の争訟については重要判例(例えば最判昭和52年3月15日富山大学事件等)がありますので、それらの知識を使って、何とか食らいつきたい問題だったと思います。

一つの考え方として(上記札幌高裁令和5年3月14日・最判平成31年2月14日等)、除名処分について司法審査が及ぶのであれば、金銭請求についても司法審査の対象となる、というのはあり得るでしょう。

民法について

民法は、詐欺取消し・解除からの出題でした。

設問1は、詐欺取消し及び契約の解除について言及出来れば、十分点数をもらえると思います。

設問2は、まず、訴訟物が所有権に基づく妨害排除請求権である点に触れられると好印象だと思います。

その上で、取消前の第三者についての論述が求められていますので、趣旨から96条3項の「第三者」について論じれば、十分でしょう。

また、545条1項ただし書きの「第三者」について、同様に趣旨から論じれば問題ないと思われます。

もっとも、抵当権の被担保債権の中に、従前より借りていた5000万円が含まれているので、5000万円部分については96条3項の「第三者」にあたらず、ここについての抹消はできないということになります。そして、抵当権の不可分性から、請求は認容されない、ということになりそうです。

ここは、かなり難しい問題だと思います。もっとも、この点に気づいている受験生の方が少ないと思いますので、ここを落としても、十分合格はできると思います。


設問3は、取消後の第三者について問われていますので、まず、96条3項の「第三者」には当たらない点に触れた上で、177条の問題として処理すれば十分でしょう。解除後の第三者についても同様に論じれば問題ないでしょう。

民法は、基本的な問題でしたが、意外と奥が深い問題でもありました。もっとも、その点に触れられなくても、基本的な事項について論じられていれば、それなりの評価は得られたと思います。

刑法について

刑法は、錯誤論からの出題でした。方法の錯誤について、法定的符合説について簡単に論証した上で、当てはめをすればOKでしょう。また、故意の個数に着目して数故意犯説に言及出来ればより良いと思います。

それ以外だと、今回の罪名が、強盗致傷なのか、強盗殺人未遂なのか、即ち殺意があるのかの認定は出来たかなと思います。主観については触れられておりませんが、犯行態様・狙った場所等から認定することは可能であったと思われます。

また、「警ら中」ということで、公務執行妨害なのか、業務妨害なのかということも問題となり得ると思います。もっとも、この点については、多くの受験生が気づけない可能性が高いのではないかという点と、刑法の近年の傾向から、基本的な事項に配点があるので、気付けなくても致命傷にはならないと思います。

刑法も、錯誤についてある程度書けていれば、それなりの評価がされると思われますので、点数を稼ぎたい科目といえるでしょう。

最後に

上記でも述べたように、憲法以外は基本的な事項からの問題でした。一部難しい部分もありますが、まずは民法と刑法の基本的事項をしっかりと論じた上で、憲法で、どこまで食らいつけるかが勝負になると思います。

日大ローの配点は、基本的事項に振られることが多いので、まずは基本的事項を示すことができたかが重要となるでしょう。

なお、上記見解は、私個人の見解であり、日大ローの見解とは一切関係ありません。
また、当記事は無断転載禁止とします。




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