令和7年度日大ロー入試第1期の雑感

全体的な講評

憲法・民法・刑法、いずれも基本的な分野からの出題となりました。この点については、例年通りということになります。

したがって、基本的なことを正確に表現できたのか、問題文を読み事実関係を正しく理解し適切に処理できたのか、といった基本的な部分で合否が分かれることになるでしょう。

憲法について

憲法は22条1項からの出題でした。素材判例は、最判令和4年2月7日(最高裁判所民事判例集76巻2号101頁)ですが、これを知っていることを求めている問題でないことは明らかでしょう。この判例自体、皆が知っている、ないしは皆が知っておくべき判例とはいえないと思います。

もっとも、令和4年度の重判には掲載がありますので、絶対に知り得ない判例ではありません。しかし、例年の出題趣旨を参考にする限り、最新判例に関しては、素材判例自体を知っていることを求めるものではないので、やはり、出題者が当該判例を知っていることを求めるものではないと思います。

なので、22条1項の基本的な理解を問う問題であるといえるでしょう。22条1項といえば、薬事法違憲判決が、著名かつ基本的理解として押さえておくべき判例として挙げられると思います。なので、本問も薬事法違憲判決の理解を正確に引用しながら、判断枠組みを定立し、当てはめをすれば十分合格答案となるでしょう。

もっとも、本問は、事案が少し長いです。また事情も多いので、正確に事案を整理できたかどうか、という点で差がつくと思います。

民法について

民法は、表見代理からの出題でした。

設問1については、2つ考えがあり得るところだと思います。ここはチーム内でも意見が分かれましたが、最終的には110条の表見代理の問題ではないかという結論に至りました。

Aは白紙委任状を交付しているだけなので、109条の問題(厳密には109条2項の問題)として考えることも出来そうです。しかし、直接交付型で転々流通することが想定されていない場合、直接被交付者には、何らかの代理権を付与していることが通常であること、本問でも、Aは、Cが甲土地に抵当権を設定すること自体は了承しており、手続きだけを任せただけなので、Aは、Cに対して、甲土地に抵当権を設定する代理権を付与したと考えることができます。そして、Aは、その代理権を逸脱していることから110条の表見代理の問題として処理すればOKだと思います。

設問2は、設問1の結論と連動してくるところだと思います。Dが保護される、即ち正当理由があるのであれば、その転得者であるEも保護されることになります。(理由としては法律関係の早期安定の必要性等が考えられます)。そうではなく、Dに正当理由が認められない場合には、110条の「第三者」に転得者が含まれるか、ということが問題となります。

この点について、判例は転得者は「第三者」には含まれないとしているので、94条2項類推適用により保護されるか否かを検討することになります。

刑法について

刑法の素材判例は、福岡高判昭和61年3月6日(百選Ⅰ69事件)。中止犯からの出題でした。

本問は極めて基本的であり、「自己の意思により」「中止した」といえるのかを丁寧に認定すれば、十分合格点がつくと思います。

前者については、今回の中止の理由が「自己の意思により」といえるのか、「自己の意思により」の解釈論を展開し、規範立てをして、当てはめればOKです。

後者については、救急車を呼び、医師等により救命されていることから、他者によって結果の発生を防止した場合にも「中止した」といえるのか、ということが問題になります。ただ、これに関しては、論点として取り上げてもいいかもしれませんが、いわゆる「真摯な努力」該当性、即ち当てはめの中で問題意識を示すだけでも足りると思いました。

最後に

このように見てみると、やはり基本的な問題からの出題ということが言えると思います。ただ、憲法・民法に関しては、事案が少し長いので、正確に事案を把握できたか否かでも差がついたと思います。

受験生としては、基本的な事項について、しっかりと学習しておくことが大事だと思います。

なお、上記見解は、私個人の見解であり、日大ローの見解とは一切関係ありません。

また、当記事は無断転載禁止とします。


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